2024.07.17
【TKI訴訟・紛争座談会】訴訟は”時の積み重ね” – クライアントにベストなシナリオを描く4つの心得
近年、国内の訴訟案件でも、海外の動きを考慮しなければならないケースが増えてきました。ビジネスのグローバル化や海外投資家の存在感増大を背景に、訴訟の進め方にも変化が求められています。
最前線で活躍する東京国際法律事務所(以下、TKI)の岩崎大弁護士、山崎雄大弁護士に、訴訟・紛争の現場について話を伺いました。
岩崎大弁護士
2007年弁護士登録、2019年4月TKI入所
国内外の幅広い業種のクライアントの仕事をしており、米国・中南米での駐在経験を踏まえ、クロスボーダーでの企業法務について豊富な経験を有する。M&A・コーポレート案件、企業結合対応を含む独禁法に関する案件、国内外の個人情報保護法対応を含むインターネット関連案件、及び、訴訟紛争案件(刑事訴追の支援を含む)を取り扱っている。
山崎雄大弁護士
2023年弁護士登録、2023年4月TKI入所
裁判官として東京地裁(労働部)を含む複数の裁判所で勤務し、民事、刑事、家事事件に関する様々な裁判手続を担当した経験を有する。検事として外務省に出向し、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約に基づき、我が国と締約国との国境を越えた子の連れ去り又は留置に対する中央当局による返還・面会交流支援業務に従事した経験も有している。
国内案件と国際案件の境界は曖昧になりつつある
訴訟を取り巻く環境について、近年の傾向を教えてください。
岩崎弁護士:国内案件と国際案件の線引きが曖昧な案件が増えてきています。国内案件でも、クライアントや取引先など海外の動きを考慮しなければならないケースもあります。
海外投資家の目も厳しくなり、コンプライ・オア・エクスプレインの考えも浸透してきました。
従来は紛争が発生してもブラックボックス的に解決されている側面もありましたが、昨今では、和解や裁判所での協議などに関しても、透明性の高い説明ができるようなプロセスが意識されるようになってきています。
山崎弁護士:経済活動自体が国際化していることにより、国内案件でも英語の資料や契約書を扱う場合も多くあります。こうした状況のなかで、我々としてはより柔軟な対応が求められるようになってきています。
訴訟活動における弁護士の役割は「登山ガイド」
訴訟案件に取り組むにあたって、お二人が大切にされていることは何ですか。
岩崎弁護士:「時間」「Forward-looking/thinking(前向き)」「コミュニケーションの仕方・伝え方」「チームワーク」の4つを重視しています。
私どもが担当させていただいている訴訟案件の多くは、複雑かつ難易度が高く、準備書面など、主張のやり取りが何往復も続くことが想定されるなど「時間」がかかります。
私は俳優のショーン・コネリーが好きなのですが、彼の出演するウイスキーのCMで、「時は流れない。それは積み重なる」というキャッチコピーが使われていました。この言葉は訴訟にもぴったり当てはまります。
訴訟において、時間はただ過ぎていくものではありません。順番が大事になる場面もあり、「道筋」をクライアントとともに見出すことが重要です。長期に渡る訴訟活動の流れを見ながら、どうして最初にこの言葉を選ぶのかなど、初手や二手、三手目を慎重に選び、後になって響くシナリオを意識する必要があります。
山崎弁護士:時間という観点ではスケジュール管理も大切です。そもそも訴訟を提起する期間には制限が設けられていることも多くありますので、その段階でしっかりと提訴期間を守ることが必要になります。 また、提訴後は裁判所から各当事者に課題と提出期限が設けられます。そこに向けてどのような証拠収集活動を行っていくのか、どのタイミングでクライアントと打ち合わせをするのかなどといったことを含めてスケジュール管理していく必要があります。
二つめの「Forward-looking/thinking(前向き)」とはどのような考え方なのでしょうか。
岩崎弁護士:訴訟では「後からこうしたらよかったのでは」というポイントが出てくる可能性があります。この可能性を減らすために、必要なものが、事実やそれを裏付ける証拠、またはそれを依頼者の最大限利益のために見つける姿勢です。
この証拠や事実の収集にあたって、執念を持って全力で取り組みたいと考えています。
訴訟の段階では、クライアントにとって困難な場面です。「まずい」「何とかしなくては」といった後ろ向きな気持ちでご相談いただくことも少なくありません。しかし、前向きにことを進めなければ関係者の情熱が集まってきません。
我々はクライアントの最大の守護者(ガーディアン)であることをお伝えして、真摯にクライアント、そしてその悩みを理解する。「この証拠が見つかってよかったですね」と一歩ずつステップを踏んで真実に近づいていく。こうしてクライアント及びその担当者、皆様1人ひとりと「仲間」になることで、前向きにことを進める側面もあると思います。
後ろ向きな形ではなく、物事を前向きに進めていくといった場を設けることによって、皆の情熱が生まれ、執念が生まれ、新しい知恵や勝利への道筋が見えてきます。
山崎弁護士:ともに「前向き」な場を生み出すためには、クライアントから信頼していただくことが重要です。コミュニケーションの話にも関連しますが、訴訟活動における代理人は、登山ガイドのような役割を果たすと考えています。
登山ガイドは、そもそもその山に登れるのかどうかを判断したうえで、どういう登山ルートがあるのか、どのようなシナリオが想定されるのか、どういうときに進むべきか、撤退すべきかを登山者に伝えます。
訴訟に置き換えると、勝てるのか、負けるのか、勝ち方や負け方、判決で終わらせるのか、和解で終わらせるのか、そのような結論に持っていくためにはどういう証拠が必要なのかを適切にクライアントにご説明します。
こちらの想定した結果に沿う結果が出てくれば信頼を得ることができます。
登山と異なるのは、裁判官という人の判断が結果に大きく影響する点です。その裁判官の考え方や訴訟指揮の傾向を捉えて正確な見込みを立てていくことは、弁護士としての腕の見せどころです。
クライアント、対裁判所、チーム内 訴訟活動におけるコミュニケーションの重要性
信頼関係をつくり出すためにも、「コミュニケーションの仕方・伝え方」は重要ですね。
岩崎弁護士: おっしゃるとおりです。コミュニケーションが大事でして、何をどう実現するかコストも意識して伝えていくことも重要です。言い換えますと、5W1HにHow much(いくらかかるか)を加えた「5W2H」を伝え、または考える必要があることを意識しています。
クライアントのニーズを聞き出した上で、実現したいこと(獲得したい利得や免れたい損失など)及びその実現可能性を共に分析させていただきつつ、それを実現するために必要な事実と証拠、そして必要となるであろうコストを相談させていただきます。
山崎弁護士:コストがどのくらいかかるのかを正確に予想するのは難しいです。クライアントにリスクを伝えたうえで想定されるコストの幅を示すのも私たちの役割と考えています。
岩崎弁護士:リスクの幅を示すうえではコミュニケーションがとても大事です。
「クライアントが思い描いている事実が本当に真実か」という点は丁寧に確認する必要があります。
例えば、クライアントとしては真実と見えていたとしても、相手方にはクライアントが持ってない事実や証拠を持っている可能性があります。ご自身が不利だと思っている事実、証拠も含めてきちんとお話いただいたうえで丁寧な事実の見立てをすることが大事です。
時には、壁打ちのように対話をさせていただきながら、クライアントが話しやすいコミュニケーションの場をきちんと作ることを意識しています。
クライアントの皆様と「一緒に歩んでいく」ためのコミュニケーションを大切にされているのですね。根源にはどのような思いがあるのでしょうか。
岩崎弁護士:正直者が損をするような社会であってはならないし、真実を追求しているのに報われない理不尽があってはなりません。法律家として、正義を追求することは重要な要素です。クライアントとは、クライアントの悩みを共感し、正義を共に見出し、執念を持ってクライアントの課題解決に向けて共に全力で取り組む最高のパートナーでありたいと思っています。
山崎弁護士:訴訟においては、クライアントに加えて裁判官とのコミュニケーションも重要です。
訴訟活動は大まかに、クライアントからお話を聞き、それを支える証拠を探し出し、主張書面を作成して裁判官に伝えるという流れで進めます。
クライアントが叶えたいことは何か、誰を巻き込めるのか見極めたうえで、裁判所をいかにして味方にするかといった視点が大切です。この点では、私の裁判所での勤務経験を活かしたいと思います。
訴訟を遂行するうえではTKI内部でのコミュニケーションも重要かと思います。大切にされていることの一つに「チームワーク」をあげられていますね。
岩崎弁護士:私がTKIにいるのは、良いチームをつくりたいからです。
TKIは、フラットでクライアントのためにベストを尽くすチームづくりが特徴です。 多段階の構造的なチームではなく、案件に合わせてベストなチームをつくる体制なので、柔軟な対応が可能です。たとえば、ファーストドラフトは若手の役割という固定観念に縛られず、誰が担当するのがクライアントにとってベストなのかをその都度考え、ワンチームでバリューを出せるよう意識しています。
山崎弁護士:TKIが受け持つ案件は大規模で複雑なものが多いため、基本的には複数名のチームで対応します。
TKIには、知力、体力、そして真面目さを兼ね備えた若手メンバー、私のように裁判官や検察官の経験があるメンバー、英語対応が得意なメンバーなど、多様性のあるメンバーが揃っています。
それぞれの力を集結させることで、多様な案件に柔軟に対応していけると考えています。また、多くの訴訟では、証拠がない状況のもと対応を進めていかなければなりません。メンバー皆で知恵を絞って証拠を構成し、クライアントにとって一番適切な解決策を提案して良い結果を実現するためにベストを尽くしたいと思っています。
フロンティアに挑戦し続けるチームでありたい
最後に、お二方の描くビジョンをお聞かせください。
岩崎弁護士:チームの力を最大限活かすことができる環境づくりに取り組んでいきたいと考えています。そのためには、日々の所内でのコミュニケーションや雰囲気づくりも一つの仕事です。
イシューが拡大するなかでは、価値観やバックグラウンドの多様性はますます重要になっていきます。TKIでは少数精鋭で多様な人材を揃えている自負がありますが、十分ではない部分もまだまだあります。より良いサービスを提供できるよう、仲間を増やしていきたいですね。
山崎弁護士:フロンティアに挑戦していくチームでありたいと思っています。
国内案件でも、私たちが担当する案件は困難かつ前例のないものも多くあります。1号案件に挑戦していくようなチームを作っていきたいですね。
また、国際案件の場合、外国企業で訴訟活動を行う方にとっては、日本というフロンティアでの活動です。積極的にトライし、しっかりとクライアントをガイドできるチームづくりを目指していきたいです。
(文:周藤 瞳美、取材・編集:周藤 瞳美・松本 慎一郎、写真:岩田 伸久)