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2024.06.13

【不正調査対応座談会】企業不祥事における危機管理対応をアップデート – ​​ガバナンスに「魂」を込めるTKIの提案

企業の不正や不祥事が後を絶たない昨今、危機管理対応のあり方が改めて問われています。不正会計、品質・検査不正をはじめ日本企業に特有の課題も浮き彫りになるなか、企業はどのように調査に臨み、信頼回復を果たしていけばよいのでしょうか。

東京国際法律事務所(以下、TKI)では、企業のおかれた環境に即したきめ細やかなサポートを提供しています。TKIが目指すのは、真摯に問題に向き合い、未来に向けて企業価値を再生していくことです。

森幹晴弁護士松本はるか弁護士山崎雄大弁護士の座談会から、危機を転機に変えるTKIの取り組みに迫ります。


森幹晴弁護士
2004年弁護士登録、2019年4月TKI設立

クロスボーダーM&A、国内M&A、企業不祥事・危機管理、不正調査・特別調査委員会、紛争案件、エネルギー・インフラ案件、ヘルスケア・ライフサイエンス、テクノロジー、当局調査やコンプライアンス案件等の業務に携わっている。


松本はるか弁護士
2005年弁護士登録、公認不正検査士、2023年2月TKI入所

国内企業及び海外子会社の不正調査、特別調査委員会、国際仲裁を含む国内外の紛争解決、EPCを含む建設工事、医業機器、不動産取引、倒産・再生手続、東京都入札監視委員等の業務に携わっている。

山崎雄大弁護士
2023年弁護士登録、2023年4月TKI入所

裁判官として東京地裁(労働部)を含む複数の裁判所で勤務し、民事、刑事、家事事件に関する様々な裁判手続を担当した経験を有する。検事として外務省に出向し、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約に基づき、我が国と締約国との国境を越えた子の連れ去り又は留置に対する中央当局による返還・面会交流支援業務に従事した経験も有している。

近年の不正の傾向から見える、日本企業特有の課題とは

企業の不正や不祥事における最近の傾向について伺えますか。

森弁護士:近年目に付くのが、メーカーの生産部門・技術部門における品質・検査不正問題です。従業員の不正という形で起きることが多く、日本企業に特徴的なパターンの一つといえます。

もう一つは、会計不正です。伝統的な大企業による不正だけでなく、中小の新興企業でも手口が複雑な会計不正が見られるようになってきています。コロナ禍で厳しくなった経営状況が不正の背景になったケースもあり、コロナ時代の膿が少しずつ出始めてきている状況といえるでしょう。

松本弁護士:不正発覚の端緒の一つに内部通報があります。近年では、内部通報で発覚する傾向がより強まっています。今後、海外往査を行うなかで発覚する事象も増えてくるものと見ています。

森弁護士:日本の場合、税務署や会計士など外部からの指摘で発覚するケースも未だ多くあり、コロナ禍を経て、公正取引委員会や税務署、監査法人が問題意識を強めています。

企業においては、外部からもたらされた情報はもちろん、内部からの通報や指摘に対しても、内輪で処理することなく、公平性・透明性のあるプロセスを通じて対応することが求められるようになってきています。

松本弁護士: 調査方法という観点では、デジタルフォレンジックの存在感が増してきています。私が不正調査に携わるようになって10年ほどになりますが、当初はまだ技術が発展途上で、直接的な証拠を発見することが難しい状況にありました。ただ近年では、専門家によるレビューの仕組みやAI技術が進化してきたことで、不正調査の手段として確立したものになりつつあり、広く利用されるようになってきています。

特に国内企業において、不正や不祥事が起きてしまう大きな要因はどこにあるのでしょうか。


森弁護士:欧米など海外では個人の利益のために不正が行われるケースが目立ちますが、日本の場合は、もちろん経営者が主導する不正(いわゆる経営者不正)、キックバックなど個人の利欲のための不正も多いですが、「会社のため」に行われているケースも少なくないという特徴があります。経営者の経営方針・圧力から事業部や生産部門が組織防衛のために不正に走るケースもあります。

日本でよく見られる品質・検査不正を例に考えてみると、前任者からそのまま引き継いだ慣行に問題があった、納期遅れによって顧客に迷惑をかけたくなかった、検査数値が違うと声をあげても取り上げてくれる上司がいなかった、場合によっては隠蔽するなど企業文化そのものに問題があることも多いです。

こうした不正の原因を探ると、生産計画や納期などの組織目標を達するため、現場にしわ寄せが起きて発生することがあります。こうなると、現場の問題ということにとどまらず、マネジメントとガバナンスの問題になってきます。経営としては、弱いところに手を差し伸べていく、現場への理解を深め、優しさを持って接することが大切です。短納期や品質第一の要求を現場に押し付けていないか、品質検査部門に製造部門に対して独立した対等の発言力を確保する組織体制をとっているか、改めて考え直していく必要があります。

松本弁護士:国内企業における不正の背景の一つに、日本の労働市場における雇用の流動性の低さがあげられます。多くの日本企業の従業員にとって、転職しながらキャリアアップしていくことは、未だに一般的な選択肢ではありません。長期雇用を前提とした会社との関係性のなかでは、「会社のため」という理由は動機・機会・正当化という不正のトライアングルにおける「正当化」に強く影響します。

雇用の流動化に対して直接的にアプローチすることは難しいため、企業としては、社内での職務分掌を徹底し、相互にモニタリングできる仕組みや内部通報制度を整備・周知して実質的に機能させていくことが重要です。企業の中には、内部通報制度を作ったものの、従業員がほとんど知らない、ほぼ使われていない、という例も多くあります。

ガバナンス面では、外部からの目が少なく、内向きになりがちという問題も抱えています。取締役に社外取締役がいなかったり、社外取締役がいても社長の長年の友人だったりすると、同質的な価値観の中で馴れ合いが生じ、不正に対する抑止が効かないこともあります。この解決策のポイントとなるのが、多様性です。株主構成や、取締役、監査役を含む役員、従業員の多様性を高め、さまざまな考えを持っている人がいるという緊張感のなか、外部からの監視・牽制によって不正はある程度抑止されていくものと考えています。

形式的対応を超え、「魂」の入った危機管理体制を構築する

なぜTKIでは企業不祥事の危機管理対応に力を入れているのでしょうか。



森弁護士: クロスボーダーM&AからスタートしたTKIは、国内企業のM&A、紛争解決や国際的なインフラプロジェクトにまで領域を広げてきました。企業法務のバリューチェーンを考えると、M&Aの実施後、国際的なビジネス展開を進める中で紛争や不祥事、法令違反も残念ながら起こりえます。

TKIとしては、カルテル事案、贈収賄・FCPA 事案、海外での個人情報漏洩事案、OFAC規制や輸出規制、ビジネスと人権に関する事案など、ご相談を受けた事案への対応を一件一件積み重ねていくなかでお客さまからの信頼をいただき、製品に関する不正問題や会計不正事案など、徐々に大きな不祥事対応について取り組む機会を得てきました。

基本的人権の尊重と社会正義の実現を使命とする弁護士は、世の中の課題に取り組み、よりよい世界をつくって次世代に伝える責務があると捉えています。そうした観点からも、事務所として企業不祥事の危機管理業務に取り組むことは自然な流れでした。

松本弁護士:クロスボーダーM&Aでは、買収した会社で不祥事が発生したり、子会社で不正が発覚したりなど、さまざまな不正のケースが考えられます。

国内案件であっても、ステークホルダーが海外にいらっしゃる場合もあります。そういった方々の利害に配慮しながら調査を進めていけるのはTKIの強みと考えています。

山崎弁護士:最近では検察官や裁判官出身者もTKIに参画し、事実認定の強化をしています。危機管理業務へ対応できる体制がより強固なものになってきているといえます。

TKIの危機管理対応の特徴を教えてください。


森弁護士:ガバナンスや内部統制のあり方が注目されるようになったことで、コーポレートガバナンス・コード、財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準など、さまざまなアプローチで問題が整理されてきました。その反面、形式的なチェックリストで対応すればよいだろうという考え方が出てきてしまっているのも実情です。

調査を進めるなかでは、ガバナンスや内部統制について、形式は整っているものの画竜点睛を欠くように感じられるケースはままあります。一つの型がどんな企業にも当てはまるということはありません。

社会的な議論や整理が進んできた領域に対して、きちんと各企業のガバナンスや内部統制に「魂」を入れていく必要があります。「魂」とは、企業ごとのビジネスモデルや経営理念、経営者が持つべきリスクやチャンスに対する考え方です。

経営理念、ビジネスのチャンスに対する考え方に対してバランスを取ったリスク管理、内部統制の考え方をご提案できることがTKIの特徴です。

松本弁護士:多くの法律事務所では不正調査の専門チームが調査を行いますが、TKIの場合は、不正調査を専門領域とする弁護士を中心として、フレキシブルなチーム編成で、多様なバックグラウンドを持つメンバーによる調査を行います。

これにより、クライアント企業に対して一方的に調査を行う、というよりは、クライアント企業の経営理念やビジネスに寄り添った形で解決策をご提案できると考えています。

ポイントは、柔軟な調査体制の構築と適切な調査スコープの設定

TKIが危機管理対応に取り組むなかで大切にしていることを教えてください。



森弁護士:不祥事や危機管理の対応にあたって、外部弁護士に社内調査を支援してもらうか、第三者委員会(または特別委員会)を立てるかは悩ましく、一義的な答えがあるわけではありません。どのような調査体制がよいかを状況に応じてきちんと見分けることが重要です。

東京証券取引所の「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」を参照すると、経営陣が関わる重要な問題やインパクトが大きく説明責任を果たさなければいけないケースは、中立かつ専門的なチームによる第三者委員会が適しています。そうでない場合は社内調査という選択肢もあります。

社内調査の場合、調査結果の対外開示はなされず、社内の調査チームを外部弁護士が支援します。一方で、第三者委員会型の調査は独立した外部専門家によるチームが調査を実施し、調査結果は公表されますので、その分企業にとっても影響が大きくなります。独立性のある第三者による調査体制を組んで十分な調査を行い、事実を解明した上、真因と再発防止策を公表することで、取引先や株主、関係当局等の信頼を回復する、それが第三者委員会型の調査の目的です。

問題事案のケースによって、企業の危機管理の観点から最適な調査体制を選択する必要があります。ここで判断を間違えないために、外部の危機管理弁護士が支援することに意味があると考えています。

そのほか、重要な点はありますか?



森弁護士:極めて重要なことが調査スコープの設定です。適切な調査範囲を設定していなかったことで、問題を隠そうとしたのではないかとステークホルダーや規制当局等の不信を招いてしまうケースがまま見られます。

調査の中身はもちろん、入口の意思決定として調査範囲の設定は重要です。十分な調査を尽くすという場面では、A調査、B調査、C調査の3つの調査を行います。A調査は発覚した本件事案の調査です。本命の調査です。ただ、これだけでは十分でありません。一つ不祥事が起きれば、取引先や株主、関係当局等は、他に類似事案がないかということを懸念します。信頼回復のためには、件外調査を行って類似事案の有無を確認し、他に問題事案がないということをステークホルダーに示すことが重要です。これがB調査です。C調査は、不祥事が起きたのは、ガバナンスや内部統制システムのどこに問題があったか、真因と再発防止策につながる調査です。ステークホルダーから調査の信頼を回復するには、この3つの調査をきちんと行って結果を開示することが重要です。

松本弁護士:依頼を受けてからスコープの決定まで、クライアント企業との間では多くのディスカッションを重ねます。

会社規模、上場/非上場、国内/海外、関与している人が判明しているか否かなどによって、問題の原因や対応方針のバリエーションは多岐にわたり、それがスコープの設定に大きく影響します。

調査スコープが狭すぎると不信を招きますが、広すぎても莫大な時間とコストが掛かってしまいます。特に不正会計事案では、有価証券報告書等の開示義務の延長にも期限があるため、時間との戦いとなります。監査法人や関東財務局、東証等の関係者の合意を取りながら決めていくプロセスは、非常に重要かつ最も気を使いますね。

山崎弁護士:会計士や弁護士など多数の専門家が短期間で一つの調査報告書としてまとめ上げていくなかでは、調整を行い、タスクやそのスケジュールを設定していく必要がありますが、こうした対応はTKIのように多様な人材が所属する事務所に強みがあると考えています。

森弁護士:特に会計不正などは、会計士の先生やフォレンジック調査会社とチームを組んで、会計や法律の狭間となる領域での連携が必要となります。そのうえ、事実解明をした後にも、過去の有価証券報告書の訂正、提出期限に間に合わない場合には延長の申請、株主総会の延期手続きなど、総合的な支援が求められます。

TKIは調査のみならず、会社法・金商法の知見、財務局や東証とのコミュニケーションなども含めたコーポレート法務の豊富な経験を有しています。これにより、会計不正などの大きな事案についても対応できる体制を整備しているのです。

TKIが導く、企業の信頼回復と再生の道筋

TKIの危機管理対応は、特にどのような企業におすすめでしょうか。

森弁護士:型通りのガバナンスや内部統制に違和感や課題を感じ、より自社にフィットする方法を検討されている企業の方とご一緒したいと考えています。時代の変化に応じた新しいニーズに目を向けて取り組んでいくことこそが、TKIが提供すべき価値だと考えています。

第三者委員会型の調査プラクティスは、企業のコンプライアンス経営の前進に貢献してきました。これを確立された弁護士や会計士の諸先輩の方々には敬意を持っています。

一方、第三者委員会型の調査プラクティスが定着してから10年以上経過し、新しい課題も出てきていると感じています。

不正・不祥事の内容や企業の置かれた環境によって、危機管理対応のベストソリューションは異なります。

第三者委員会型の調査プラクティスを新しい価値観に応じてブラッシュアップしていくことが求められる時代になりつつあります。

調査だけでなく、何が問題だったのかをしっかりと把握し是正して、企業の信頼回復を図っていく。そこまで見据えた細やかかつ柔軟な対応が求められます。

どのような形でのブラッシュアップが求められているのでしょうか?

森弁護士:たとえば、厳密な形式での第三者委員会による調査を行うとなると、調査資料は企業側に共有しないなどの制約があります。

企業としては、問題を把握し再発防止策を立て、マーケットの信頼を回復することが重要ですが、調査資料を利用できないという制約によって難しくなる場面もあると思われます。資料提供の目的次第になりますが、第三者委員会の調査の独立性が害されないよう独立性が確保される状況にあることが条件になると思います。

また、調査結果を世の中に公表すると株主から役員に対して責任を求める訴訟を求める声が起きかねません。こうなると調査のやり直しや時間の経過に伴う負担も生じます。上場会社として株主を含めたステークホルダーに対する説明責任を果たすことは信頼回復に向けた第一歩となりますが、開示に伴う実務的な不利益があるというのも実情です。

一例としてグローバル企業の場合、調査報告書を全面開示した場合、外国株主から弁護士秘匿特権を放棄したと捉えられたり、訴訟を誘発したりするおそれもあります。

日本企業の売り上げの多くを海外が占めるようになり、外国株主が増えてきている状況の中で生じる実務上の課題に対して、調査の手法や考え方についてバージョンアップを求められている場面もあるように感じています。

実務上、もう一点気になるのは、株主側から代表訴訟が提起されるケースで、原告株主の側によくある誤解は、調査報告書で経営陣の問題点が指摘されているから、調査報告書に依拠して経営陣に対して損害賠償請求を求める、というケースです。しかし、調査報告書は不正の原因となったガバナンスや内部統制の問題を把握して、再発防止を提言することを目的とするものであって、役員責任の有無の認定を目的とするものではありません。調査報告書で問題ありとなれば、即役員責任が肯定されるというのでは、調査委員会によるガバナンスや内部統制の改善を図る取り組みに支障が生じてしまいます。役員責任については、それとは別に過失責任の立証が必要になるということをよく理解する必要があると思います。

松本弁護士:そうした価値観のバランスを取っていくことがTKIとしては重要だと考えています。そのうえで、"絵に書いた餅"ではなく、実行可能な選択肢をお客様と相談しながら提案し、全力でサポートいたします。

山崎弁護士:TKIでは、過去の不祥事を断罪するという「過去志向」ではなく、不祥事を経てその会社をどう改善・再生していけばよいかという「未来志向」で対応していきたいと思っています。

森弁護士:社長自ら、あるいはバトンを受けた次世代の経営者がきちんと事態を受け止めたことで、企業の信頼回復・価値の再生を果たしてきた企業は多くあります。

一つの不正や不祥事ですべてが終わりだと短期的に判断するのではなく、天が与えた課題だと思って真摯に取り組む経営者が増えることを願ってやみません。そして、私たちTKIのチームも同じ気持ちで対応していきたいと考えています。

(文:周藤 瞳美、取材・編集:周藤 瞳美・松本 慎一郎、写真:岩田 伸久)