2023.08.16
TKIリモート・インハウスサービスで法務の仕事をさらに魅力的なものにする
「TKIリモート・インハウスサービス」の提供開始から約2年。数々のクライアント企業の多様なニーズを伺うことで、東京国際法律事務所(以下、TKI)ではサービスの「質」に磨きをかけてきました。
本サービスの究極的な目標は、経営陣にアドバイスを求められる、ビジネスセンスを持った法務部門にレベルアップしていくためのサポートを行うこと。この目標を達成するためには、日本企業の法務部門が抱える課題に正面から向き合う必要があります。
今回は、TKIリモート・インハウスサービスを担当する谷中直子弁護士、石原尚子弁護士、松浦啓智弁護士に、サービス提供者としての観点から、日本企業の法務部門の価値を高めていく方法について伺いました。
谷中直子弁護士
2001年弁護士登録、2021年1月TKI入所
国内大手渉外事務所において約20年間の勤務経験を有し、M&A、国際取引、金融規制法、独禁法等を含む会社法務全般、労働案件、ファイナンスを広く扱っている。
石原尚子弁護士
2009年弁護士登録、2022年8月TKI入所
米国大手法律事務所において、10年以上にわたり、国内外の企業を代理し、知的財産権関係取引、M&A、スタートアップ企業に関する取引、Venture Capital投資を中心に、知財戦略や戦略的業務提携を含めた、幅広く一般企業法務およびクロスボーダー取引等の商取引ならびに企業紛争(知財紛争を含む)の経験を有する。
松浦啓智弁護士
2015年弁護士登録、2023年1月TKI入所
大手国際法律事務所において、国内外の企業を代理し、国内外のM&A、組織再編、競争法関連案件等の企業法務案件に従事した経験を有する。総合商社法務部において、国内外の商取引、M&A、ジョイント・ベンチャー、組織再編等を中心に広く企業法務案件に従事した経験も有する。
TKIリモート・インハウスサービス利用企業のニーズとは
サービスを提供するなかで、各企業の法務部門からどのようなニーズが寄せられていますか。
谷中弁護士:企業によって、ニーズや依頼内容は様々です。特定分野の契約書審査をサポートしている企業もあれば、法務部門に寄せられるあらゆる法律相談や契約審査依頼への対応、契約書の雛形の作成、規制法対応のアドバイスなど幅広くサポートしている企業もあります。ただ、いずれもその企業における法務部門の一員として業務を分担する形で対応しており、ビジネス上の観点を踏まえて、踏み込んだアドバイスができるよう心がけています。
松浦弁護士:私の場合、M&Aや複雑な合弁事業などのプロジェクトごとに法務部員として参画するケースが多いですね。人手不足などにより既存のリソースだけでは対応が難しい案件にスポットで対応するイメージです。
石原弁護士:私は法務部門の方々とともに契約審査や法律相談対応などを担当しています。また、若手法務人材の育成を期待されている面もあるため、チームの皆さんが法務として効率的かつポイントを押さえてビジネスに貢献できる考え方を培っていけるようサポートしています。
ディスカッションを通して事業部門からの問い合わせに対する法務としての視点・確認事項・要注意ポイントなどをお伝えするので、法務担当者の考え方や視点が能動的にブラッシュアップされているという実感があります。
外部弁護士という立場からではカバーしきれない部分へのニーズがあるように思います。外部弁護士とインハウスの違いをどう考えていますか。
松浦弁護士:外部弁護士は、クライアントにおいて、事実関係、関係書類、問題点などが整理されたうえで相談を受けることが多いです。一方で、インハウスは、そもそも何が問題点なのか、解決すべき法的問題を発見・設定するところから取り組む必要があります。そのうえで、事業の戦略や競争環境といった観点を踏まえ、外部からは見えにくい様々な実情も考慮して、現場に落とし込みやすい対応策を提案・実行することもポイントです。社内関係者のコンセンサスの形成や対応策の実行のためのファシリテーションも求められます。
石原弁護士:距離感の違いもあります。インハウスの場合、プロジェクトの形にすらなっていないような比較的初期の段階から、漠然とした相談が事業部から寄せられることも多くあります。外部弁護士への依頼は法務部門が窓口になることが多いですが、インハウスは事業部と直接やり取りすることも多く、ちょっとした質問などを気軽に聞きやすい身近な立ち位置にいるように感じています。
TKIリモート・インハウスサービスを提供するなかで、国際案件が増えてきているという実感はありますか。
谷中弁護士:そうですね。国際案件は英語が必要で複雑になるため、法務部で抱えている案件の中でも特にTKIの弁護士が担当になる場合が多いです。
松浦弁護士:私が本サービスでサポートしているプロジェクトのほとんどに、ほぼ間違いなくクロスボーダーの要素が入っています。海外向けの取引や投資案件だけではなく、日本国内の案件でありながら、取引先やパートナーが外国企業で、契約書が英文というケースも多いです。新興国の案件も多く、従来の先進国におけるプラクティスを前提にした知識・経験では対応できないこともあります。
石原弁護士:日本企業であっても、国内だけにビジネスが収まることはほとんどなく、どの法務部門も国際案件は避けては通れない状況にあると思います。ただ、年次が若い方などは、英文契約の経験に乏しく対応が難しい場合もあります。人材不足で時間が限られているなか、特に英語の案件をTKIの弁護士に担当してほしいというニーズもあるようです。
谷中弁護士:本サービスの一環として、法務部向けの英文契約に関する研修の実施を依頼されるケースもあります。研修では、一般的な英文契約の説明に加えて、実際にその企業で取り扱った契約事例を使って、レビューや交渉のポイントを解説するなどしています。
経営に求められる法務へレベルアップするために必要なこと
海外企業と比較して、日本企業の法務部・法務担当者はどのような点に課題がありますか。
石原弁護士:経営的なマインドセットを身につける機会が少ないことです。事業部門の方であれば、普段の営業活動のなかで自ずと身につけていくことができますが、法務部門の方はまず法的な専門知識を身につけることが優先されますし、契約書業務や法的解釈などミクロな観点からの検討を求められることが多く、視点が目の前の法的論点や規定に集中してしまいがちです。
特に日本企業では、新卒から法務人材を育成することも多いため、企業内で法務実務と経営実務的なトレーニングの両方を担うことになり、人材育成に人的・時間的コストを十分にかけられない状況にあります。
松浦弁護士:海外企業、特に米国企業は、法務に対して事業の成長に直接的に貢献する役割を期待する企業も多く、リスクの大小・発生可能性を現実的に評価したうえで、事業の成長に資する対応策を追求することが多いという印象です。
企業ごとに法務に求める役割については様々な考え方があり得るところですが、日本企業では、経営層から「法務の役割はあくまで事業部を牽制すること」と考えられてしまい、牽制以外の役割を果たしうることを認知されていないという側面もあるかもしれません。
そうした課題の解決に向けて、TKIだからこそ貢献できるという点はありますか。
石原弁護士:TKIでは、ビジネスの意図するゴール・目標を達成するための法律判断を提示したうえで、ビジネスジャッジをしやすいリスク評価も併せて提供し、かつ、企業の志向性・考え方を踏まえた法務としての提案までを行っています。そのような背景から、若手弁護士も含めてビジネス・オリエンテッドな考え方が身についています。
松浦弁護士:TKIには、ビジネスそのものに興味・関心を持ち、問題の本質を探り当てようとするマインドを持った弁護士が多く所属しています。また、TKIは、日本企業による海外M&Aなどのクロスボーダー案件においてリードカウンセルを務めた経験を持つ弁護士も多いです。この種のリードカウンセルには、検討・解決すべき問題点の適切な設定、過度に保守的ではない現実的なリスク評価、対応方針の戦略的検討などを行う姿勢が求められます。これらはインハウスに求められるマインドセットとも重なると考えていますが、豊富なリードカウンセル経験も相まって、TKIの弁護士はこれらの姿勢を自然と発揮できるのだと思います。
谷中弁護士:TKIリモート・インハウスサービスは、コロナ禍の2021年に立ち上げたサービスです。提供開始から約2年間で多くのクライアントにご利用いただき、ノウハウも溜まってきています。
もちろん、TKIリモート・インハウスサービスに求める業務や支援方法は企業によって異なりますが、本サービスを担当する弁護士同士で検討会を開き、直面した課題をどう解決したか、企業のニーズにフィットしたものにするためには何をすべきかなど、あらゆる観点から議論をして、より質の高いサービスを提供できる体制づくりを進めています。
企業の理解を深めていくために重要なのは、密なコミュニケーション
インハウスとして、企業の志向性やカルチャーに沿った仕事ぶりが求められると思います。担当企業に対する理解を深めるため、どのような取り組みをされていますか。
谷中弁護士:事業部の方と密に連絡をとるため、案件共有とは別に毎週30分程度の定例会を実施し、問題意識や会社の考え方、ポリシーなどを確認・共有しています。ここではわざわざメールで聞くほどでもないようなちょっとした質問へ回答することなどもありますね。こうしたコミュニケーションのなかで、ニーズを拾うようにしています。
石原弁護士:やはりこまめにコミュニケーションを取ることに尽きると思いますね。日常的に気になっていることを定期的にやり取りしていくなかで、その企業の方向性やバリュー、業務の重要性やリスクの軽重による優先順位付けなどを理解していくようにしています。特に担当企業のお客様とのやり取りについてアドバイスをするような場合、その企業がお客様にとってどういう会社でありたいかなどといったポイントを理解して臨むようにしています。
松浦弁護士:プロジェクトベースで担当している立場からすると、案件に入る前に、その企業にとってプロジェクトがどういう立ち位置なのか、法務部として特に気になる事項の有無などをヒアリングして目線合わせをしています。
ビジネスの前線で活躍できる法務人材が増えることは、企業だけでなく業界全体にとっても大きなメリット
今後、日本企業の法務はどう変化していくとよいでしょうか。そこに対して、TKIリモート・インハウスサービスの普及はどのように貢献するのでしょうか。
松浦弁護士:適切なリスクマネジメントの下にリスクテイクを後押しし、事業の成長、ひいては企業価値の向上に直接的に貢献することを志向する法務部門が増えていくと、これまで以上に法務の仕事の面白さが増し、活躍の幅も広がると思います。このサービスを通じて、そのお手伝いができればと考えています。
石原弁護士:法務もビジネスの前線で活躍できる仕事なんだというイメージに変わっていけば、優秀な人材も増え、仕事もより魅力的なものになっていくはずです。法務のニーズが高まるということは、法律事務所、ひいては法務というマーケットにとっても大きなメリットです。
特に、TKIの弁護士はインハウス業務を含めビジネスの前線の方々との仕事を通じてビジネスマインドを持っているメンバーが多いため、サービスを通じてその姿勢を感じていただくことで、人手不足を埋める以上のメリットを感じていただけると思います。
谷中弁護士:やはり法務部の方にとって法務の仕事が楽しくやりがいのあるものになるとよいですね。本サービスを通じて、新しいものの見方や発想を提供できるとよいと思っています。ただ、法務の方々の業務量は多く、どうしても目の前の仕事に忙殺されてしまいがちです。本サービスでは、人手不足へのサポートも行いながら、経営に求められる法務部門になるための変化を支えていければと考えています。
(文:周藤 瞳美、取材・編集:周藤 瞳美・松本 慎一郎、写真:岩田 伸久)