2023.06.27
TKIは「パワースポット」- 国際的な紛争解決にワンチームで挑む
公設事務所からキャリアをスタートし、国際仲裁や海外子会社の内部調査をはじめとする有事対応を中心に幅広い経験を積んできた松本はるか弁護士が、2023年2月に東京国際法律事務所(以下、TKI)へ参画しました。ビジネスの最前線で戦うクライアント企業を、チームワークを大切にしながら機動力を持ってサポートしてきた松本弁護士。そのパワフルな活躍ぶりの原動力に迫ります。
多種多様な事案を扱うなかで、国際仲裁へ興味を持つように
まずはこれまでのご経歴について教えてください。
弁護士としての最初の3年間は公設事務所に勤務し、経済的に恵まれない方に対して、法律問題に限らず、その方の置かれた状況をトータルで改善していけるような対応をしていました。他の法律事務所では受任できないような案件でも、必要であればリーガルサービスを提供するというコンセプトの事務所だったので、一般民事の事件、家事事件、債務整理事件、刑事事件から税務訴訟まで、非常に多種多様な事件を扱いました。訴訟対応の基礎もここで身につけることができました。
その後、国内の中規模事務所に移籍しました。労働や保険法関連の訴訟対応のほか、会社の倒産に強い法律事務所です。アパレルや大手の海上土木、食品メーカーの自己破産や民事再生、会社更生を含む倒産事件を多く担当していました。同所が国内保険会社の顧問先だったこともあり、保険会社を代理した約款解釈や不正請求事案など、保険に関する複雑な案件も扱っていました。
また、この間にUniversity College Londonへ留学し、国際仲裁やクロスボーダー訴訟、ADR(Alternative Dispute Resolution)をメインにした紛争解決のコースを履修しました。
どのようなきっかけがあったのですか?
当時担当していたアフリカの港湾工事に関する建設工事仲裁の案件が非常に面白く、国際仲裁をはじめとしたクロスボーダー紛争の方面に興味を持つようになりました。
国際仲裁は訴訟とはひと味違って、当事者が合意さえすれば仲裁人や手続上のルールなどをほとんど自由に決めることができ、非常にダイナミックに物事が進んでいきます。そのため、積極的にルール形成をリードし、当事者双方が手続に要する期間や費用をコントロールする方向で働きかけることが望まれます。
文化的なバックグラウンドの異なる関係者が集まりさまざまな意見がでるなか、弁護士としては、できる限りイニシアチブを取りクライアントにとって有利な状況を形成することが重要です。このような取り組みによってクライアントにもたらす価値を最大化していけるというのが国際仲裁のいちばんの醍醐味です。
この経験が、今の自分のプラクティスの基礎になっています。
留学から帰国した後は、より国際的な仕事に携わりたいと考え、米国大手法律事務所に移籍しました。紛争解決部門に所属し、国内外の企業を代理する訴訟や国際仲裁、国際調停の担当です。
案件の種類も変化がありそうですね。
独禁法違反や贈収賄、従業員による不正など、国内企業の海外子会社に対する不正調査も非常に多かったです。
法域が海外の場合、一般的には現地の弁護士をリテインするので、国内の弁護士としては、準拠法が異なるなどの理由であまり積極的に関与せず、いつの間にか海外法律事務所と依頼者との連絡役になってしまうことも多いようです。
ただ、私としては、クライアントの立場から事案について100%把握し、クライアント自身で意思決定できる環境をつくっていくことが大事だと思っています。そのため、調査方針などは依頼者と実質的に協議・決定したうえで、現地の弁護士のサポートを得つつ現地での聴き取り調査や従業員との紛争対応まで対応するなど、なるべく“現場監督”に徹するよう心がけていました。
日本との時差を含め、様々な制約があるなかで緊急対応を求められることも多いため、現場で国際紛争をコントロールすることは非常に大変です。そうした状況でも、比較的裁量権を持って広く担当させてもらえたのは、得難い経験だったと思っています。
クライアントの満足感・納得感がなければ意味がない
かなり幅広いご経験をされているように感じます。これまでのキャリアのなかで大切にされてきた考え方はありますか。
いちばん大事なのは、「クライアントが満足すること、納得すること」だと考えています。弁護士目線でこれ以上の成果はないと思うようなことでも、クライアントに満足していただかなければ意味はありません。
クライアントと密にコミュニケーションを取って問題の本質にできる限り近づけ、いかに根本的に課題を解決するための提案ができるか、といった発想を持つことが大切です。
特に紛争対応は誰にとっても有事であり、先が見通せない状況となるので、担当者の方にとっては非常にストレスの大きな環境となります。
また、証人尋問や証拠提出など、クライアントやその現場の方々にご協力いただかなければならないことも多いため、弁護士としてはできるだけクライアントのチームの一員となって連携し、ワンチームとして対応していくことが求められます。
この「チーム全員が一丸となって勝ちに行くぞ!」という雰囲気が、私はとても好きなのです。
とはいえ、最後まで勝ち切ることにこだわりすぎず、選択肢を示す柔軟性も必要です。
控訴などで対応が長引いてしまい時間や費用の増加するデメリットなどを考えると、早期解決のために和解で終結することが合理的な場合もあります。訴訟や仲裁で勝つことは当然重要ですが、勝つことがクライアントにとってどれだけの意味を持つのか、冷静に考えなければならないときもあり、いずれの方針についてもクライアントに選択肢と予想される帰結を示すことが求められます。
非常に複雑な状況に対してとてもパワフルに立ち向かわれていると感じました。その原動力はどこから生まれているのでしょうか?
端的かつ語弊を恐れずにいうと、有事対応が好きなのだと思います。これまで長きに渡って紛争解決をはじめとした有事対応を続けてくることができたのも、おそらく、好きだから、だと思います。先が見えない不確定な状況には明確な正解がなく、時に困難な局面もありますが、クライアントにとって最適な方針をクリエイティブに考え、状況を切り開いていくこと自体が好きなのです。
また、チームで働くことが好きというのもあります。クライアントとワンチームで対応していると、クライアントに価値を還元できたことがわかりやすく実感できますし、「この人たちのために、戦って勝たなきゃ」という強い気持ちも生まれてきます。
紛争対応のなかで企業の根本的な課題まで把握し解決できれば、会社としてはより強くなれる可能性もあります。「これを好機と捉えて一緒に会社を強くしていきましょう」と呼びかけて、チームを組んでひとつになっていく感覚も、自分のモチベーションになっています。
TKIはエネルギッシュで「パワースポット」のような場所
そして、2023年2月からTKIに参画されています。TKIを選ばれた理由を教えてください。
以前所属していた米国大手法律事務所で仕事をするなかで、日本の会社や経済に自分がどう貢献できるか考えたとき、日本のクライアントが海外でもイニシアチブを取って意思決定できるようなサポートをしていきたいと思うようになりました。
こうしたスタンスがTKIの目指しているところと一致していると感じたのが、TKIを選んだいちばんの理由です。
実際にTKIで働いてみていかがですか。
非常に面白い事務所です。
TKIでは、弁護士以外のスタッフを「バックオフィス」と呼んでいるのですが、バックオフィスを含めたメンバーが良い意味で落ち着いておらず、皆前向きに全力で仕事に取り組んでいて、とてもエネルギッシュです。一緒に働いているとすごく良いパワーをもらえるような、パワースポット的な場所だと感じていますし、自分もできるだけ良いパワーを還元したいです。
法律事務所としてTKIが新鮮だなと思ったのは、弁護士としての年次に関わりなく、「社会にどのような課題を見つけて、その課題をどう解決して価値提供できるのか」、言い変えると「自分はどんな弁護士なのか、そして、どんな弁護士になりたいのか」という問いを常に考えさせられる雰囲気や文化がある点です。
たとえば紛争であれば、単に紛争を解決するだけでなく、なぜ紛争が起こったのか、今後会社としてやれることは何か、より本質的な課題を見つけて、そこにアプローチしていくことが求められます。
所内のコミュニケーションがフラットなのも特徴です。弁護士だけでなく、バックオフィスメンバーも積極的に発言していますし、オープンな形でディスカッションが進んでいきます。先日、行われた所内のワークショップはバックオフィスメンバーが発案、企画、運営したイベントで、非常に好評でした。また、業務を円滑に進めるための所内ルール作りにも、バックオフィスからの提案や意見が重要となっています。
また、TKIでは多様性を推奨しており、女性比率が高く、多様な国籍の弁護士が一緒に働いていることも、事務所の文化に良い影響を与えています。
規模の大きな法律事務所ではプラクティスごとに縦割りでチームを分けることが一般的ですが、TKIではプロジェクトごとにチームを組んで対応していくので、さまざまなメンバーと関わることができます。この際に多様性を確保していることが、クオリティの高いリーガルサービスを提供するうえでの鍵となります。
たとえば、異なる国や法域のリスク分析を求められたときにも、TKIではワンストップで対応していくことができます。こうしたTKIならではの文化が、弁護士、そして事務所の健全な成長の土壌となっているように感じています。
クライアントの有事に頼りがいのある弁護士でありたい
最後に今後のビジョンをお聞かせください。
有事対応の経験が長いので、クライアントの有事に頼りがいのある弁護士でありたいですし、TKIでもそのようなプラクティスをより強化していきたいと考えています。
有事というと、訴訟、仲裁、調停といった紛争、企業や関係者による不正の調査・善後策を要する場面のほか、最近ではランサム・アタックなども増えてきています。こうしたとき、まずはTKIに相談してみようと思ってもらえることが理想です。
また、今後は、エネルギー関連を含め、国内の企業も国際仲裁に直面する機会が増えてくると思います。自分としては国際仲裁にも引き続き注力していきたいと考えています。
有事では決まった型がなく、弁護士としてはできるだけ機動的に情報収集をして、固定観念にとらわれずにクリエイティブに解決策を探す姿勢が重要となります。
そうした姿勢を持って迅速に初期対応をしつつ、全体的な課題の本質を把握してクライアントに道筋を示せるよう、これからも心がけていきます。
そのためにはやはり、チームワークが大切です。自分一人だけで考えつくことには限りがあります。異なるバックグラウンドや意見の人たちが集まって知恵を出し合い、クライアントとワンチームになることで、日本企業の意思決定をサポートしていきたいと考えています。
(文:周藤 瞳美、取材・編集:周藤 瞳美・松本 慎一郎、写真:岩田 伸久)