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2021.12.07

【グリアーともニュージーランド弁護士 × 山田広毅弁護士対談】欧州大型M&Aの現場では何が起きているか 具体と抽象を行き来して自分の「武器」を磨く

クロスボーダー案件に強みを持つ東京国際法律事務所(以下、TKI)では、日本企業による欧州での大型M&Aを支援した実績もございます。

1つの経済圏に複数の法体系を持つ欧州の案件を成功に導くには、日本と欧州各国の違いを理解しコミュニケーションを円滑に行うことが求められます。

同領域において多くの案件を担当してきたグリアーともニュージーランド弁護士(日本未登録)と山田広毅弁護士に、国内案件との違いや難しさ、具体的な進め方などについて聞きました。

日本で生まれ育ち、ニュージーランドで学生生活を過ごしたグリアー氏は「欧米と日本との違いに驚いた経験が今につながっている」と語ってくれました。

数十カ国の提携弁護士ネットワークで、複数国をまたぐ複雑な案件にも対応

TKIでは欧州においてどの国のM&A案件で実績がありますか。

グリアー氏:欧州はほぼ全域において実績があります。主要国であるドイツ、イギリス、フランス、イタリア、ロシア、スペイン、オランダ、スイスなどに加え、ポーランド、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、ルクセンブルグ、ベルギー、キプロスなどでの実績もあり、欧州の国であれば基本的にはすべてカバーできるような体制を整えています。

EUの経済圏が1つということもあり、大型M&Aを行う際、対象会社は多数の子会社を欧州に持っていることが多いです。そのため、1つのディールで複数国をまたぐケースもあり、案件に対応するためには欧州全体のネットワークを持っている必要があります。

TKIでは国内案件も扱われていますが、国内案件と国際案件の大きな違いは何でしょうか。

グリアー氏:何か1つ決定的に違う事項があるというよりは、文化、言葉、時差、法律など、小さなファクターが重なることで、誤解や難しい問題が発生しやすいという特徴があります。

山田弁護士:共通の理解を持つことが難しくなりますね。

グリアー氏:コモンロー(英米法)とシビルロー(大陸法)1で法解釈のアプローチも大きく異なります。たとえば同じ会社法の話をしているときでも、捉え方は国によってまったく違います。

コミュニケーションの方法も、その国の文化によってダイレクトな話し方を好む弁護士もいれば、遠回しな表現をする弁護士もいたりと、ケースバイケースで考えていく必要があります。

山田弁護士:そういう意味では、一口で欧州といっても、コモンローの国とシビルローの国が混ざっていますし、文化も様々で面白い場所ですよね。

グリアー氏:そうですね、とてもやりがいがあります。日本企業によるスイス企業の買収案件では、対象企業が欧州やアジアの複数カ国に子会社を持っており、まさに、シビルローの国もあれば、コモンローの国もありました。もちろん大変ではありましたが、提携先のさまざまな国の弁護士たちと連携して取り組みました。

山田弁護士:シビルローとコモンローで、法的論点への考え方のアプローチがかなり異なります。その点を踏まえて、現地の法律家の主張・見解を理解しようとしないと違和感を覚えることもあります。コモンロー、シビルロー双方の素地の理解を深めることは重要で、そうでないと、ある論点の結論だけはわかったとしても、それをその後応用していくことができません。

法律以外に、文化の観点ではどのような注意が必要でしょうか。

山田弁護士:グリアー氏はご自身も複数の文化をバックグラウンドとしてもたれ、その後も豊富な経験を積んでいくなかで、異文化間コミュニケーションにおいて複数の引き出しを持っていると思います。ご自身のバックグラウンドは、クロスボーダーの案件を手掛けるうえで役に立っていると感じますか?

グリアー氏:法律業務に加えてソフトスキルも重要になるため、かなり役に立っていると思いますね。私は日本で生まれ育ち、10歳のときに日本からニュージーランドへ引っ越しました。学生生活をニュージーランドで過ごしたのち、タイに渡り、その後日本に帰国しました。最初に日本からニュージーランドに引っ越した際、欧米と日本の考え方、コミュニケーションの違いにとても驚きました。日本に帰国した際にも、逆の困惑がありました。

こうした経験を活かし、海外案件を進めている際には、日系企業が驚きそうなところを丁寧にケアするよう同僚の弁護士に伝えたり、逆に、欧米の企業からすると「なぜ日系企業はこんなことをするのだろう?」と疑問に思うようなところを先回りして現地法の弁護士にきちんと説明したり、ということを心がけています。

国際案件ならではの難しさと、そこを乗り越えるための工夫

欧州のM&Aを行う場合、海外の法律事務所と提携して進めていくことになると思います。どのように提携弁護士を決めて、どのように案件を進めていくのでしょうか。

グリアー氏:TKIでは、さまざまな規模や専門性を持つ事務所と数多くの案件を一緒に行った経験があるので、案件の規模やクライアントのニーズに合わせて適切な事務所を選びます。最も重要なことは、信頼関係を築けている事務所であるかどうかです。

お互いのリスペクトがなければ、チームワークは機能しません。事務所は異なっても、クライアントの立場からみると私たちロイヤーは1つのチームです。現地法に関する問題だからすべて現地事務所に任せる、というスタンスを取っていてはうまくいかないのです。

現地事務所から出てきた知恵を、クライアントが気づいていないようなビジネス/リーガルリスクまで考慮したうえで、上手くパッケージングして提供することが私たちの価値です。

山田弁護士:クライアントのことを現地事務所に伝える際にも工夫が必要ですよね。

グリアー氏:そうですね。現地事務所からは「欧州のクライアントだったら問題にならないようなことでなぜスタックしているのか?」といった問い合わせを受けることがあります。私たちがコミュニケーションのハブとなって、そこを上手く説明してあげることが大切です。

山田弁護士:クライアントに対しても、現地事務所に対しても、異文化間でコミュニケーションを取る際には常に「そもそも論」に戻って説明することがポイントです。

ただ単に結論だけ伝えるのであれば誰でもできますが、問題の本質から論理的に説明しないと、すれ違いに気づかなかったり、同じような問題に何度もぶつかることになってしまいます。

たとえば、日本企業や日本市場が重視しているポイント、日本政府の動きなど背景まで含めて説明したうえで、なぜ当該イシューが重大視されているのかを説明することで、現地事務所も納得できるだけでなく、Win-Winとなるソリューションの提案にもつながります。

結果として、現地の弁護士からの信頼感も得られますし、クライアントの納得感や満足度も大きく向上させることができます。その際、グリアー氏のようなバックグラウンドを持っていると、「そもそも論」のベースとなる文化や言語なども含めて両方の立場を理解できるので、非常に効果的です。

今まで直面した問題のなかで、国内案件では経験しないような困難はありましたか。

グリアー氏:複数国をまたぐデューデリジェンスを行った案件では、さまざまな問題が発覚していくなかで、すべてを把握している事務所の立場から、何が一番プライオリティの高い問題か、1つの国で問題が発覚したが他の国の弁護士にも共有した方がよい懸念点などがないか、常に全体感を意識して仕切っていくことが求められました。「国内でのまとめ役」というイメージとはまったく異なる役割が求められます。

山田弁護士:複数国をまたぐことで問題の複雑性が一気に高まりますね。純粋なロジ周りについても考えなければならないことが増えるうえに、依頼者が過去に直面したことがない問題が多数生じるため、その困難さは増していきます。頭を常にシャープにしておかなければなりません。

一緒に仕事をした海外トップM&Aロイヤーからも高く評価

欧州案件を扱う際に意識していることはありますか。

グリアー氏:「世界で勝負するための武器を提供するプロフェッショナル集団」というTKIのミッションを常に意識しています。シニアの弁護士と比べて知恵と経験が少ないなか、私の「武器」は何だろうかとずっと考えていた時期があるのですが、あるとき、これまで直面したすべての壁が自分の武器になっているのでは、と思い至りました。

ここにいる山田に比べれば、ロイヤーとしての経験は少ないわけですが、規模や内容によらず、これまでやってきた1つひとつの案件を忘れないで、あらゆることから学び、それらをすべて武器に変えていくことができると考えています。

山田弁護士:グリアー氏は「具体と抽象の行き来」を自然に行っているのだと思います。国際案件は、国も違えば会社も違うため、まったく同様の法的論点を再度取り扱うことはそれほど多くありません。

しかし、少し抽象的な目線で「この問題はなぜ起きたのか」というところから考えると、他の案件に応用できる部分は多くあります。そこがまさに、クロスボーダー法務の肝になるところであり、TKIの競争力の源泉になっている部分ではないでしょうか。

欧州案件を扱ううえで、他にTKIの強みとなるところは何でしょうか。

グリアー氏:TKIメンバーは、海外経験が豊富で英語力も高く、内部に多様なバックグラウンドを持ったメンバーがいます。複雑な国際案件に数多く携わった経験とナレッジを所内でうまく共有して、事務所全体のノウハウにしています。そうしたTKIだからこそ、日系企業のクライアントと相手方双方の立場から深く問題を理解できると考えています。

山田弁護士:TKIは、クロスボーダー案件を専門的に扱っている日系の独立系事務所という点では、かなり特異な存在です。これまでクロスボーダー案件全体をマネージしたりリードしたりするスキルや経験をより多く積んできており、その点については他の法律事務所に負けない自信があります。

グリアー氏:先日担当した案件では、終わった後に提携先の弁護士から「今まで一緒に仕事をした日系弁護士事務所のなかで一番良かったよ」というメールをいただきましたね。

山田弁護士:相手はスイスにおける文字通りトップのM&Aロイヤーでした。そんな方から「仕事がしやすかった」と言ってもらえたことは、非常に嬉しかったですね。本当に大変な案件だったので(笑)。自分たちが出すべきバリューをしっかりと考え実行してきたからこそもらえた感想だと思っています。

グリアー氏:味方の弁護士に加えて、相手方の弁護士とも信頼関係を構築でき、よい感想をいただきました。激しくやり合う相手方の弁護士からリスペクトされるのは一番難しいことだと思うので、大変でしたが、やりがいがあったな、と実感しました。

(文:周藤 瞳美、取材・編集:周藤 瞳美・松本慎一郎、写真:弘田 充)


1 世界の法体系は英米法系のコモンロー(判例法主義)と大陸法系のシビルロー(制定法主義)に大別される。日本はシビルローが採用されている。