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【コラム】 インドのグリーン水素およびグリーンアンモニア分野における日本企業の事業機会

インドのグリーン水素およびグリーンアンモニア分野における
日本企業の事業機会

近年、インドは、グリーン水素およびグリーンアンモニアの生産の世界的な拠点となるために大きな飛躍を遂げつつあります。特に、国家グリーン水素ミッションの立ち上げにより、インドは、世界のクリーンエネルギー転換における主要国としての地位を確立しつつあり、日本企業にとって多くのビジネスチャンスを産み出しています。

インドのグリーン水素推進:主要政策と取り組み

インドのグリーン水素推進は2021年連邦予算において発表され、2022年2月のグリーン水素政策でより具体的なものとなりました。この政策は、グリーン水素とグリーンアンモニアの生産を促進する枠組みを提供することにより、インセンティブを生み出し、規制上の課題に対処しようとするものです。2023年1月に発表された「国家グリーン水素ミッション」において、2030年までに60万人以上の雇用を創出し、960億米ドル以上の投資を誘致し、年間5000万トンのCO2排出量を削減すると予測されています。

このミッションは2つのフェーズで構成されています。フェーズI(2022年~2026年)では、既に水素を利用している分野での早期導入に焦点を当て、フェーズII(2026年~2030年)では、船舶、航空、その他の分野でのGHの利用拡大を目指します。新再生可能エネルギー省が中心的な機関として、省庁間の調整を図っています。

規制基準とインセンティブ

一般にグリーン水素は再生可能エネルギー由来の電力を利用して、水を電気分解し生成される水素として定義されるが、新再生可能エネルギー省はグリーン水素の明確な定義を定め、原料の採取から製品の出荷までの工程(水処理、電解、ガス精製、乾燥、水素の圧縮を含む)(Well-to-gate)における二酸化炭素(CO2)排出量を水素1キログラムあたり2キログラム以下であることを条件としています。また、国家グリーン水素ミッションには当初予算として23億8000万米ドルが割り当てられており、このうち主要なプログラムとしては、グリーン水素移行に向けた戦略的介入(SIGHT)プログラムやパイロットプロジェクトプログラムがあります。SIGHTプログラムでは、グリーン水素の生産と電解槽製造の両方を促進することが目的となっており、これらの国内における生産を促進するために相当額の補助金が提供されます。

2024年7月、新再生可能エネルギー省はSIGHTプログラム下におけるインセンティブとして、製造された水素1kgあたり0.36~0.60米ドルを支給することを発表しました。また2024年11月8日、新再生可能エネルギー省は、革新的な手法を用いたグリーン水素の生産と利用に関するパイロットプロジェクトの実施に向けた新たなスキームガイドラインを発表し、水上ソーラー及びバイオマスによるグリーン水素生産、廃水からのグリーン水素生産など、グリーン水素生産のための革新的なモデル/技術/手法を支援しています。これらの取り組みは、輸入への依存度を低減することで、インドをグリーン水素およびグリーンアンモニアの価格競争力を有す生産国に変えることを目的としています。

州レベルでの優遇措置

各州は、投資家からの投資を誘致し、現地でのグリーン水素およびグリーンアンモニアの生産を促進するために、独自の優遇措置を設けています。そのような意味で、インドの各州固有の政策は、国の優遇措置を補完し、投資家に対してさらなる利益を提供するものと位置づけられます。以下は、主要な州とその優遇措置の概要です。

  • マハーラーシュトラ州:マハーラーシュトラ州の水素政策では、2030年までに年間50万トンのグリーン水素生産を目標としています。投資家は、30%の資本助成と(再エネ発電所からグリーン水素製造のために調達する電力に関する)送電料金および託送料金の60%割引の恩恵を受けられるため、マハーラーシュトラ州はグリーン水素生産において競争力を有する投資候補地となっています。
  • アーンドラ・プラデーシュ州:同州は5年間で50万トンのグリーン水素と200万トンのグリーンアンモニアの生産を目指しています。投資家は、州物品サービス税の100%還付、土地およびグリッドへの優先アクセス、州内送電料金の25%還付の恩恵を受けることができます。これらの優遇措置により、アーンドラ・プラデーシュ州は大規模プロジェクトに魅力的な投資候補地となっています。
  • ラージャスターン州:ラージャスターン州は「ラージャスターン州グリーン水素政策」の下、2030年までに年間200万トン規模の水素生産を目指しています。同州は送電料金および託送料金の50%の払戻、サーチャージの100%免除、研究開発への30%の補助金を提供しており、生産および研究の両面に適した環境を整えています。

これらの各州固有の政策とインドの国家水素ミッションを組み合わせることで、グリーン水素やアンモニアの生産に投資する企業にとって、資本補助から電力税および託送料金の免除など多岐にわたる強力な支援の枠組みが生まれます。他方で、これらのインセンティブそのものには期待を持てるものですが、インド全体での拡張性という観点では各州ごとの政策が異なっているため、課題が残ることには留意が必要です。

日本企業におけるメリット

日本企業は、インドにおけるグリーン水素およびグリーンアンモニア推進の動向から、以下のような形でその恩恵を受けるチャンスがあります。

  1. 技術提携:水素技術、その中でも特に電解槽製造における専門技術を有する日本企業は、インド企業と提携し競争入札による選定に参加することで、コスト削減と現地生産の促進を目的とするインドのSIGHTプログラムの優遇措置による恩恵を受けられる可能性があります。
  2. インフラへの投資:インドはグリーン水素生産を年間500万トン以上に拡大することを目指しており、日本企業には、再生可能エネルギー発電所や水素貯蔵・輸送施設などのインフラプロジェクトへの投資機会がもたらされます。
  3. 肥料生産のためのグリーンアンモニア:グリーンアンモニアはインドの農業分野で重要な役割を果たすことが期待されており、日本にはその生産工場の設立や生産効率の向上のための技術移転への投資を通じた共同事業の機会がもたらされる可能性があります。
  4. カーボンクレジットの活用:インドのカーボンクレジットスキームと新規のグリーンクレジットルールを組み合わせることで、その温室効果ガス排出を削減し、カーボンニュートラルを実現できるポテンシャルから、インドのグリーン水素およびグリーンアンモニア分野に投資する日本企業に追加の経済的な恩恵をもたらす可能性があります。
  5. 市場拡大:インドのエネルギー需要が増加し、脱炭素化への取り組みが強化されるのに伴い、特に海運、航空、製造業などの分野において、日本企業はインドとの長期的なパートナーシップ関係を通じた恩恵を得ることができると見込まれます。

最後に

インドの野心的な「国家グリーン水素ミッション」は、日本企業にとって、最も急速に成長している1つであるクリーンエネルギー市場へ投資する戦略的機会をもたらします。そして、インドのステークホルダーと提携することによって、日本企業はより有利な政策を活用し得るほか、州レベルでの優遇措置の恩恵を受けることやエネルギー転換に参画することも可能となり得ます。今後、インドがグリーン水素とグリーンアンモニアの生産を更に拡大するにつれて、これらの分野での協力が金銭的な側面に限らず、気候変動に関するグローバルな目標の達成という側面においても有用であることが明らかになってくると考えます。

インドのグリーン水素およびグリーンアンモニア業界についてご質問や詳細情報をご希望の場合は、当事務所までご連絡ください。

(執筆担当者:堀池カーン/執筆協力者:永見


※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的又は税務アドバイスではありません。
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