国際紛争(訴訟・仲裁)

【コラム】ディスカバリー対応に関する最新情報

ディスカバリー対応に関する最新情報
(最近の米国連邦最高裁判断を踏まえて)

日本企業による米国進出、また、米国企業との取引の際の検討事項の一つが、巨額の費用が生じることになりかねない米国訴訟独特のディスカバリー対応です。自身が訴訟当事者でないとしても、急にディスカバリー対応を要する召喚状(Subpoena)を受領する等、対応を要することがありますし、また、近年日本企業の皆様が原告側/申立側として検討する事例も増えており、武器としてのディスカバリーを検討することも必要になってきています。

昨年5月、米国外の民間仲裁機関におけるディスカバリー(合衆国法典第28編第1782条)(以下「第1782条」といいます。)の適用可否について、別コラムにて、米国連邦最高裁での検討状況をお伝えしていたところ、2022年6月13日、同種の争点を問題視する別件2件((i) ZF Automotive US, Inc. v. Luxshare, Ltd.及び(ii) AlixPartners, LLP v. Fund for Protection of Investors’ Rights in Foreign States)を併合したうえでの最高裁の判断が示されました。

端的な結論として、当該最高裁は、第1782条の米国外の民間仲裁機関に対する適用に関し、政府(governmental)又は政府間(intergovernmental)の審判機関についてのみ認めるものとしました。すなわち、これにより、米国企業との取引等において、国際仲裁の合意をした日本企業が、米国に子会社を有する等の理由から思いがけずディスカバリーに巻き込まれる可能性は低くなったとはいえ、被告の立場から考えればGood Newsと考えますが、他方、原告として仲裁申立てをする場合にはディスカバリーの有効活用の範囲が狭くなることには留意が必要です。米国企業等と交渉する際に、当該取引において、自身が原告になる可能性が高いのか、被告になる可能性が高いのか等戦略的な検討がより重要になってきています。

以下、当該最高裁判断の内容とともに、実務の影響について補足説明します。

1. 最高裁判断の内容等
(1) 事案の概要と下級審での判断
(i) ZF Automotive US, Inc. v. Luxshare, Ltd.事例

  • ZF Automotive US, Inc.(米国ミシガン州法人(親会社はドイツ法人))とLuxshare, Ltd.(香港法人)との間の企業間紛争です。
  • 両当事者は、ベルリンにおける民間仲裁組織であるGerman Institute of Arbitration(ドイツ仲裁協会(DIS))に対し、仲裁を申し立てる形で紛争を解決することに合意していたところ、米国ミシガン州東部地区連邦地方裁判所は第1782条に基づく香港法人のディスカバリーに関する申立てを認め、また、第6巡回区連邦控訴裁判所も当該判断を支持しました。
  • ZF Automotive US, Inc.は、当該仲裁判断が第1782条の「foreign or international tribunal」(外国又は国際法廷)ではないと主張し、最高裁へ上告しました。

(ii) AlixPartners, LLP v. Fund for Protection of Investors’ Rights in Foreign States事例

  • デフォルトとなったリトアニアの銀行の暫定管理人である代表者が所属するAlixPartners, LLPとロシアの投資ファンドであるFund for Protection of Investors’ Rights in Foreign States(ロシア投資家)との間の事件であり、実質的にはリトアニアとロシア投資家との間の紛争です。
  • ロシア投資家が、リトアニアとロシアとの間の二国間投資協定により、リトアニアに対し、UNCITRAL仲裁規則に基づくアドホック仲裁を申し立てました。その後、ロシア投資家(正確には当該権利を譲り受けていたロシア企業)は、ニューヨーク州南部連邦地方裁判所に対し、暫定管理人及びAlixPartners, LLPから仲裁手続に用いる証拠を収集するため第1782条の手続を申し立てました。同連邦地方裁判所はこの申立てを認め、第2巡回連邦控訴裁判所も同地裁の判断を支持しました。
  • AlixPartners, LLPは、本件仲裁が「foreign or international tribunal」(外国又は国際法廷)ではないと主張し、最高裁へ上告しました。

(2) 最高裁の判断

  • 最高裁は双方の控訴裁判所の判断を覆し、「foreign or international tribunal」(外国又は国際法廷)は、政府又は政府間の審判機関を指すものとしました。
  • また、(ii)事例(AlixPartners, LLP v. Fund for Protection of Investors’ Rights in Foreign States)については、問題となった仲裁は政府間の条約・協定を根拠としたものではあるが、アドホック仲裁廷に政府又は国家の権限が付与されているとはいえないと述べ、当該仲裁手続においてディスカバリーの適用を否定しました。なお、(ii)事例における最高裁の判断は本事例に関するものにとどまり、今後政府間の条約・協定を根拠とした仲裁の全てにディスカバリーが適用されないとまでは言及していません。

2. 最高裁判断の日本企業の皆様の実務に与える影響
上記事件の結果を踏まえ、仲裁当事者は第1782条以外のディスカバリーの方策を探すことになると考えます。例えば、以下の方策が考えられます。

  • 連邦仲裁法(FAA)第7条の活用:米国内仲裁について定めた連邦仲裁法第7条による証拠収集は、当事者の居住地、取引の性質、執行手続等に鑑み、米国との関連性がある場合に認められる可能性があります。
  • 州法の活用:常々日本企業では手が回らない点が各州法によるディスカバリーの適用です。例えば、ニューヨーク州民事手続規則(CPRL)はニューヨーク州内に存在する自然人又は法人に対するディスカバリー手続について触れています。
  • 他の手法:上記米国法令以外でも、仲裁地の法令次第ではディスカバリー類似の制度が認められる可能性があります。例えば、英国仲裁法では、一定の場合において仲裁地が英国に存在するとき、英国裁判所が第三者に対するディスカバリー命令ができる旨の規定があります。

3. 結び

冒頭で述べたとおり、米国企業との取引等において、国際仲裁の合意をした日本企業が、米国に子会社を有する等の理由から思いがけずディスカバリーに巻き込まれる可能性は低くなったといえ、グローバル展開を進める日本企業の皆様においてはGood Newsと考えますが、米国連邦法・州法上、はたまた仲裁地の仲裁法により、他のディスカバリーの手法がありえることには引き続き注意が必要です。

米国企業と契約を締結する場合には、紛争解決条項には細心の注意を払う必要があり、当該取引の目的、各当事者の狙いを踏まえ、戦略的な検討がより重要になってきています。

(執筆担当者:スチュードベーカー岩崎


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