【コラム】敵対的買収が活発化 – 上場会社の経営陣はどう向き合うか?
敵対的買収が活発化
上場会社の経営陣はどう向き合うか?
当事務所は、敵対的買収の局面では、専ら防衛側の企業を支援することが多いですが、近年、防衛側の上場会社の経営陣に求められる意思決定の透明性や説明責任が高まっています。
今回は、関西スーパーと新生銀行の事例を取り上げて、パラダイムシフトの背景と上場会社の経営陣がこうした変化にどう向き合うかというテーマについて考えます。
敵対的買収が活発化
2021年は事業会社による敵対的買収が大きな話題となりました。例えば、関西スーパーをめぐるオーケーによる買収提案とホワイトナイトとなったH2O傘下のスーパーとの統合劇。また、SBIホールディングス(「SBI」)による新生銀行をめぐる敵対的買収に対し、新生銀行が買収防衛策を導入しましたが、最終的に撤回して買収提案に応じました。これらの敵対的買収事案に共通するのは、いわゆるアクティビストによる敵対的買収ではなく、事業会社が事業戦略に基づき敵対的買収を仕掛けた点です。
米国では敵対的買収は1980年代から本格化していましたが、日本では2000年代半ば以降、ライブドアによるニッポン放送、楽天によるTBS、王子製紙による北越製紙など、結果はどれも失敗に終わり、敵対的買収は日本の企業文化にあわないともいわれました。その後、敵対的買収は、いわゆるアクティビストの専売特許のような時期が続きました。
しかし、2020年頃から、伊藤忠商事/デサント、コロワイド/大戸屋ホールディングス、日本製鉄/東京製綱など、事業会社による敵対的TOBの成功事例が現れてきました。敵対的買収が事業会社の事業戦略上の現実的な選択肢となったのです。
オーケーによる敵対的TOB提案、関西スーパーはH2Oをホワイトナイトに経営統合
2021年8月、関西スーパーがH2O傘下のイズミヤ及び阪急オアシスとの経営統合を発表すると、翌9月、オーケーは、H2Oとの経営統合が撤回され、関西スーパーの取締役会が賛同すれば、TOB(1株2,250円)により関西スーパーを完全子会社化する用意があると発表しました。TOB価格は足元の株価に約6割のプレミアムを乗せた価格でした。米議決権行使助言会社2社は、経営統合による相乗効果が不明確で、オーケーによるTOB提案に分があるとして、H2O傘下のイズミヤと阪急オアシスとの株式交換に反対しました。
オーケーとH2Oによる関西スーパーの争奪戦の実態は、オーケーの水面下での買収提案に対する、H2Oをホワイトナイト(友好的買収者)とする関西スーパーの防衛戦といえます。オーケー提案のTOBは6割超のプレミアム付きで買付上限なしと魅力的で、対する関西スーパーの防衛策もよく工夫されていました。地元の阪急ブランドを持つH2Oをホワイトナイトに連れてきて、地元とブランドを味方につけたのです。また、H2Oによる関西スーパーの買収という実態を、関西スーパーがH2O傘下の子会社スーパーを株式交換する形をとることで、TOB価格の比較戦としなかったのです。
臨時株主総会では投票手続きをめぐってひと悶着がありました。2021年10月、関西スーパーの臨時株主総会で、H2Oとの経営統合案に3分の2の賛成が必要なところ、賛成票66.68%と僅差で可決しました。ある株主が会場で投じた棄権票を賛成票に切り替えた点をオーケーは問題視して、株式交換差止めの仮処分を申し立てました。神戸地裁は決議の瑕疵を認めて差止めを認めましたが、大阪高裁は株主意思を重視して地裁決定を取り消し、最高裁も高裁の判断を支持した結果、オーケーは買収を断念しました。
SBIによる敵対的TOBの開始、新生銀行は買収防衛策を導入
2021年9月、SBIは新生銀行の同意を得ずにTOBを発表しました。TOB価格(1株2,000円)は約4割のプレミアムで、最大48%の取得をめざし、新生銀行を「第4のメガバンク構想」の中核に位置付け、新生銀行が未返済の公的資金の返済へ向けた意欲を示しました。2021年9月、新生銀行は取締役会で買収防衛策の導入を決議しました。翌10月、新生銀行はTOBに条件付きで反対すると発表しました。買付株数に上限があることやTOB価格が十分でないことから、株主共同の利益に資さないと判断したのです。翌11月、新生銀行は臨時株主総会で買収防衛策の発動について株主意思を問うとしましたが、臨時株主総会の前日に防衛策を撤回して買収提案を受け入れました。
新生銀行が買収防衛策を導入したというのは、外堀を埋められていたということです。金融庁は銀行主要株主認可を出しており、SBIは新生銀行の買収にお墨付きを得ていました。新生銀行を救おうとするホワイトナイトも名乗りを上げませんでした。SBIの提案するプレミアム4割のTOB価格は機関投資家にとって抗しがたい魅力がありました。
ところが、米系の議決権行使助言会社は新生銀行の買収防衛策に賛成しました。議決権行使助言会社が買収防衛策に賛成するのは異例のことです。SBIが部分買付により実質支配を獲得すること、SBIの傘下子会社が金融商品取引法違反を指摘されていたことなどに懸念を表明したのです。
しかし、結局、新生銀行は防衛策を撤回しました。当初、新生銀行は、買付株数上限の撤廃、TOB価格の本源的価値以上への引上げを条件として、SBIのTOBに反対しました。もっとも、上限撤廃は、金商法が上限付きTOBを認める以上、論拠として弱い印象がありました。より本質的なのは、新生銀行の経営陣が本源的価値を実現できなかった現実でしょう。預金保険機構から新生銀行の経営陣に対し、「TOB価格が本源的価値を反映していないなら、本源的価値が株価に反映され、さらに高めていくために、今後どのような経営を行っていくのか」という質問がなされました。TOB価格が安いと反論した新生銀行の取締役に矛先が向かったのです。これは銀行に限らず、今後、すべての上場会社の経営陣に向けられる問いでしょう。
上場会社の経営陣はどう向き合うか?
事業会社による敵対的買収が活発化した背景には、企業経営をめぐる大きなパラダイムシフトがあります。コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)やスチュワードシップ・コードの導入により、持ち合い株式の解消が進みました。また、株式市場のグローバル化が進み、日本企業の株主には海外の機関投資家も増えました。これまでのように会社の味方をする政策保有の株主だけではなくなり、経済合理性に従って行動する株主が増えたのです。
株主と経営陣との間に緊張感が生まれ、経営陣が企業価値向上策についてより一層真剣に取り組むことが求められます。機関投資家はその背後にいる投資家に、上場会社はその株主に対して説明責任を果たす必要があります。関西スーパーの事例では、株主であった伊藤忠食品が関西スーパーに対し、オーケーからの企業価値向上策の提案に対して、関西スーパーから検討に足る十分な情報・検討材料が提供されていないと質問状を出しました。株主や利害関係者から透明性や説明責任がより問われる時代になったのです。
上場会社の経営陣は、企業価値と株主共同の利益に対する脅威となるような提案に対しては、毅然とした買収防衛活動を行うことができます。買収防衛策については、防衛の必要性と相当性を求めるルールを企業価値研究会が提案し、このルールをブルドックソース事件などで裁判所も取り入れました。しかし、企業価値を高める買収提案については、経営陣は真摯に検討を行う必要があります。これまで買収提案や交渉は水面下で行われましたが、関西スーパーと新生銀行のケースでは経営陣が買収提案に対し公の関心の下で対応を迫られたことに特徴がありました。
上場会社の経営陣として密室での不透明な意思決定が許されなくなり、大義名分を公明正大に株主や利害関係者に説明することが求められる時代になったのです。今後、上場会社の経営陣は株主から付託を受けていることをより一層強く意識しなければなりません。
上場会社の経営陣は、平時から企業価値(本源的価値)を向上する施策を打ち、かつIR活動により市場株価に反映させる取り組みを地道に行えば、買収防衛ということを考えなくても、買収を妨げる可能性が高まるでしょう。また、企業価値が向上して市場株価に反映されれば、買収を狙うフィナンシャルバイヤーにとっては収益機会が減少し、買収意欲のある事業会社にとっても提示できるプレミアムが縮小し、敵対的買収の成功確率は低下するでしょう。
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