【コラム】米国外での訴訟・紛争解決に活かすための米国法ディスカバリー活用・対処術
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米国外での訴訟・紛争解決に活かすための
米国法ディスカバリー活用・対処術
第1782条は、米国外での訴訟の当事者が、米国連邦地方裁判所を通じ、米国ディスカバリー制度を利用し、当該米国外の訴訟にて使用する証拠の収集を可能にする規定です。
クロスボーダー紛争の増加に伴い、米国外の訴訟手続では入手が困難な証拠を収集するために、第1782条を利用するケースも増加傾向にあります。米国内に支店等を有する多国籍・グローバル企業の皆様はもちろんのこと、これら企業と取引のある企業の皆様に関しましても、訴訟戦略上、第1782条の戦術上の重要性があがってきています。
第1782条に関し、(1) 手続の概要、(2) その法的要件、(3) 申請者側及び被申請者側(対象者側)の実務上の注意点(Tips)をご紹介します。
第1782条の手続の概要
米国外で訴訟を起こしている当事者は、第1782条に基づき、連邦地方裁判所に対し、外国又は国際法廷で使用するための文書及び証言の提出を対象者(以下「開示対象者」という)に強制するよう申し立てることができます。第1782条の手続は、ハーグ証拠収集条約の下での嘱託書(Letter Rogatory)や要請書(Letter of Request)に基づいて行われる開示請求よりも、比較的短時間かつ、費用も安く、より効果的です。
第1782条に基づく開示請求において、通常、開示対象者が、「居住又は所在する」地区を管轄する連邦地方裁判所に対し、申請書を提出します。当該申請は、開示対象者や当該証拠を使用する予定の外国訴訟の相手方に事前に通知することなく、一方当事者のみによる手続(ex parte)で行うことができます。申請書には、求めるディスカバリーの内容と法定の要件該当性に関する説明等が記載されます。
連邦地方裁判所は、申請書を単独で審査することができ、申請を許可した後に、開示対象者に反論の機会を与えることを許可することができます。また、裁判所は申請者に対し、まず開示対象者に申請書を送達するよう命じることができ、これにより、召喚状が送達される前に開示対象者が異議申立てを行うことができます。裁判所が申請を許可したら、申請者は召喚状の送達権限を付与され、被申請者は、召喚状を破棄するよう求める、又は秘密保持命令の発令を求めることができます。不利な決定が下された当事者は、再審査の申立てを行うか、控訴裁判所に控訴することが可能です。
第1782条の法的要件
第1782条の申請者は、3つの法的要件を満たさなければなりません。
- 開示対象者が当該連邦裁判所の管轄内にいること
- ディスカバリー対象の証拠が「外国又は国際法廷での手続に使用するためのもの」であること
- 開示を求める主体が上記手続の「利害関係人」であること
特筆すべき点として、当該外国での訴訟等が実際に係属していなくとも、訴え提起が合理的に予定されていると認められる場合(reasonable anticipation of litigation)にも申請することができます。
たとえ申請が法的要件を満たしても、連邦地方裁判所は当該申請を許可、却下、制限する幅広い裁量を持っています。米国連邦最高裁判所は、申請を審査する連邦地方裁判所の判断における4つの考慮要素(discretionary factors)を定めています(Intel Corp. v. Advanced Micro Devices, Inc., 542 US 241, 264-65 (2004)(以下「Intel事件」という))。
- 開示対象者が、当該外国又は国際法廷の手続の参加者であるか
- 当該外国又は国際法廷が、連邦裁判所の国際司法共助を受け入れる可能性があるか
- 申請が「当該外国の証拠収集の制限や、当該外国や米国のその他の政策を回避しようとする意図」を隠しているか
- 申請が「不当に侵害的又は過度の負担を課すもの」であるか
これらの考慮要素のうち1つの考慮要素が当該申請を否定する決定的な理由となるものではないため、申請者は、これらすべての考慮要素につき、申請が否決される理由とならないことを主張立証しなければならないというわけではありません。他方で、被申請者は、これらの考慮要素のうち、どれか1つでも申請が否決される理由となることを主張立証する責任を負います。
さらに、連邦地方裁判所は、ディスカバリーの方法と手続について裁量権を有しており、第1782条は、当該外国又は国際法廷の慣行と手続規定の遵守を含め、連邦地方裁判所に証拠収集の手続を決定する裁量を認めています。
申請者側の実務上の留意点
以下は、申請者が、第1782条を利用して証拠収集をしようとする場合に考慮する必要のある事項です。
- 適切な管轄の連邦地方裁判所への申請
申請者は、矛盾する判例法の状況を考慮して、第1782条に基づく申請を米国内のどこで行うかについて慎重に考えなければなりません。控訴裁判所においては、民間の商事仲裁機関が第1782条の適用範囲に含まれるか否かについて、意見が分かれている状況です(紛争解決最新情報 第1回にてこの問題について解説していますので、ご参照ください)。この問題とは別に、一部の連邦裁判所(federal courts)は米国外に保管されている文書の提出を命じる判断をしていますが、それ以外の連邦裁判所は、たとえそれらの文書が被申請者の管理下にあったとしても、本法は米国外に保管されている文書には及ばないと判断しています。また、申請者が第1782条に基づく申請を行う前に、外国の訴訟手続において利用可能なすべての証拠開示手段を尽くさなければならないか否かについても、連邦裁判所において意見が分かれている状況が続いています。 - すべての潜在的な情報保有者を対象とする
申請者は、開示対象者の対象を検討する際に、当該外国の訴訟手続における請求又は抗弁に関連する、開示すべき情報を保有する可能性のある様々な主体(法人、事業体、個人等)について、網羅的に調査すべきです。元従業員、サービス提供者(会計士、金融機関、インターネット関連サービス提供者等)、さらには被申請者が関与する訴訟の訴訟代理人等が開示すべき情報を保有する可能性もあります。また、申請者は、第1782条に類似するディスカバリー制度を有する国(特に英連邦諸国)で、並行してディスカバリー手続を行うことも視野に入れるべきです。 - 外国又は国際法廷への働きかけの検討
申請者は、第1782条の申請を行う前に、外国又は国際法廷に働きかけるべきかを前もって考えることが重要です。外国又は国際法廷によっては、その規則に基づき、当事者が連邦地方裁判所に第1782条に基づくディスカバリーを申請する前に、当該外国又は国際法廷に許可を求めることを要求する場合があります。さらに、申請者が外国又は国際法廷に許可を求めたという事実は、連邦裁判所に、(ア) 当該外国又は国際法廷が連邦裁判所の司法共助を受け入れていること、及び(イ) 第1782条に基づく申請が、制限の多い外国の証拠開示手続を回避しようとするものではないことを示すことができます。また、外国法廷の見解は、外国法廷の証拠開示手続に詳しくない連邦裁判所に知見を与えることにもなります。ただし、状況によっては、このような外国又は国際法廷への働きかけを戦略的に控えるべきとする場合があります。 - ディスカバリー範囲の絞り込み
申請者は、外国の訴訟で提起された請求と抗弁に応じて、ディスカバリー範囲を絞り込む必要があります。対象を絞った開示要求を行うことで、被申請者から開示要求が過度に広範であるといった異議や、不当に侵害的、又は過度な負担であるといった異議が出される可能性は低くなります。仮に連邦地方裁判所が、当該ディスカバリー要求は「証拠漁り」や「嫌がらせの手段」であると判断した場合、当該要求や第1782条に基づく申請を却下します。
被申請者(開示対象者)側の実務上の留意点
被申請者が、第1782条に基づいて発行された召喚状に対して反論したり限定を求めたりする際に考慮すべき事項は、以下のとおりです。
- 協力が正当化されるか否かの検討
被申請者は、召喚状に従うことが最も賢明な対応であるかどうかを考えなければなりません。連邦地方裁判所が申請を許可した後、両当事者は通常、証拠開示要求に関して会合を開き、協議を行います。両当事者が、ディスカバリーの範囲について妥協することができれば、被申請者は不要な実務上の対応や訴訟費用の支出を回避することができます。しかし、被申請者にはディスカバリー要求に反対する正当な理由がある場合が多く、裁判所に救済を求めることが戦略的に有利なケースもあります。 - 連邦地方裁判所に救済を要請
被申請者は、召喚状を発行した連邦地方裁判所に、第1782条の法的要件が満たされていないことや、Intel事件の考慮要素に照らし、申請を許可すべきではなく、申請が無効であるとの主張を行うことを検討すべきです。
また、被申請者はディスカバリーを制限する秘密保持命令の発行を求めるべきです。第1782条は「適用可能なあらゆる法的特権」(any applicable legal privilege)を優先するものであるため、開示対象者は米国及び外国の特権、免責特権、障壁規則(blocking statute)、プライバシー保護法、秘密保持法等を根拠に、証拠開示の範囲を狭めたり、非開示を正当化したりすることが可能です。ただし、被申請者は、上記主張に際し、「正当な証拠」(authoritative proof)を提出し、当該外国の法律が証拠開示要求に優先する特権を認めたことを主張立証しなければなりません。さらに、第1782条の手続を通じて開示された証拠は、他の訴訟や仲裁でも利用できるため、被申請者は、申請者が文書を使用する目的を、ディスカバリーが求められている特定の外国又は国際法廷での訴訟に限定する保護命令の発令を求めるべきです。
加えて、連邦地方裁判所は、一般的に、被申請者が第1782条に基づく開示命令に従うことに伴って多額の費用の支出を強いられないように被申請者を保護しています。裁判所は、申請者に対して、被申請者が証拠開示に協力したことに伴い発生した弁護士費用やディスカバリーに向けた事前準備等のコストの一部又は全部を負担するよう要求した事例もあります。 - 基礎となる紛争が係属する外国又は国際法廷に救済を要請
被申請者は、連邦裁判所によるディスカバリーが当該外国又は国際法廷での訴訟等を不当に妨害する可能性があることや、外国の司法権が及ぶ国内法や特権に反することを理由に、当該外国又は国際法廷自体に問題提起することを検討すべきです。連邦裁判所は、当該外国又は国際法廷が受容的でない場合、第1782条の申請を許可しない傾向があります。
被申請者は、基礎となる訴訟が係属している外国又は国際法廷において、外国訴訟差止命令を申請することが可能かどうかを確認すべきです。外国訴訟差止命令とは、当事者が他の管轄に服する裁判所や法廷で訴訟を提起したり、訴訟追行を継続したりすることを阻止する、裁判所や法廷が発する命令です。外国の裁判所が、適正手続の観点からの懸念や、申請者が当該外国内の手続に関する規則や要件を遵守していないことを理由に、第1782条の申請を差し止めた事例もあります。 - 第1782条に基づくディスカバリーの利用を制限する旨の合意
米国に「居住又は所在する」当事者は、将来的なディスカバリーの行使を制限するための予防措置を講じるか否かを検討すべきです。例えば、取引相手との契約交渉中にディスカバリーの利用制限に関する合意を求めることが考えられます。紛争解決機関の選択条項や仲裁条項において、当事者は、(i) 第1782条の利用禁止、(ii) 紛争解決の実体準拠法及び手続準拠法の選択、(iii) 米国のディスカバリールールの適用拒否等を合意するといったことが考えられます。連邦裁判所は、このような条項を推定的に適用可能と考えており、万が一、当事者間で紛争が生じた場合には有効な手段となります。また、外国の訴訟においてディスカバリーに関する基本ルールを決める際に、訴訟当事者は相手方との間で、どちらの当事者も第1782条に基づくディスカバリーを利用することはできない旨合意することも検討すべきでしょう。しかし、そのような合意をすべきか否かは、訴訟当事者が相手方又は第三者に対して第1782条に基づくディスカバリーの申請を行う可能性を考慮したうえで判断しなければなりません。
結び
クロスボーダー紛争の増加に伴い、外国での訴訟手続において、訴訟当事者が米国内に所在する証人の証言録取や証拠文書等の開示を求めるケースが増えています。第1782条は、そのような証拠を収集するための貴重な手段です。しかし、第1782条に関する判例における判断は曖昧であるため、当事者は案件ごとに分析を行い、申請する証拠開示を成功させる、又は開示要求への防御を成功させる確度を最大限に高めることがポイントです。
※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的アドバイスではありません。
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