コーポレートガバナンス

【コラム】米国におけるESGを巡る株主代表訴訟の動向

米国におけるESGを巡る株主代表訴訟の動向

世界的にESG投資が潮流となる中、2021年に再改訂されるコーポレートガバナンス・コードでは、ジェンダーや国際性に加え、職歴と年齢も取締役会の実効性確保のための多様性の要素として含まれるようになり(原則4-11)、また、「上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである」(補充原則2-4①)とされるなど、ダイバーシティの推進がますます求められるようになってきています。

このような状況のもと、米国では、2020年、クアルコムやオラクルをはじめとする上場企業に対して各社が表明しているダイバーシティ&インクルージョン(D&I)へのコミットメントが投資家に誤解を生じさせるものであるとして、株主代表訴訟が起こされていましたが、これらの株主代表訴訟についての裁判所による最初の判断として、2021年3月19日、カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所において、フェイスブックやマーク・ザッカーバーグCEOらに対する原告株主の訴えを却下する判断が出されました(Natalie Ocegueda v. Zuckerberg, Case No. 20-cv-04444-LB)。
※なお、これらの株主代表訴訟の多くでは同一のカリフォルニア州の法律事務所が原告代理人となっています。

本訴訟において、原告株主は、「フェイスブックがサービスを提供するコミュニティと同様の多様な職場とする」といったダイバーシティへのコミットメントについてのフェイスブックのプロキシーステートメント(株主総会招集通知)の内容等が重大な虚偽や誤解を生じさせるもので、証券取引所法14(a)条及び米国証券取引委員会の規則14a-9に違反すると主張していました。
※このほか、原告株主は、フェイスブックの取締役会や経営陣、従業員におけるダイバーシティが欠けていることや差別的な広告を出していることはフェイスブックの取締役の信認義務に違反するといった主張もしていました。

これに対し、連邦地方裁判所は、大要、以下の理由から原告株主の訴えを却下しました。

  1. 2019年と2020年のプロキシーステートメントにおいてダイバーシティにコミットすると述べていることは、宣伝文句(puffery)や指標的なもの(aspirational)であって、証券訴訟を起こす根拠となるものではない
  2. 広告や雇用、昇進、給与における差別的な取扱いと原告株主が主張するものはいずれも事実に反するものであり、プロキシーステートメントにおけるD&Iの内容が誤解を生じさせるものであることについて原告株主は十分な主張をしていない
  3. プロキシーステートメントにおけるD&Iの内容が仮に誤解を生じさせるものだとしても、そのことによって原告株主に損害が生じたという因果関係について原告株主は十分な主張をしていない

本件は連邦地方裁判所の訴答段階における判断ではありますが、ダイバーシティについて株主や投資家の目が厳しい米国においても、原告株主による抽象的な主張によって株主代表訴訟の請求が認められるハードルは高いことを示すものといえます。

(執筆担当者:関本)


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