国際紛争(訴訟・仲裁)

【分析】国際商事仲裁の課題

2020年7月15日、国際商事仲裁Webinar「ケーススタディで学ぶ 国際商事仲裁の基礎と実務」を開催しました。同セミナーは、申込者数84名、参加者数67名、セミナー満足度平均8.4(10点満点)という結果で、大変好評のうちに終了しました。

今回のセミナーは、約9割のお申込者様が日本の上場企業で、業種はメーカー、エレクトロニクス、自動車関連、化学、プラント、エンジニアリング、商社などと多岐にわたり、所属では法務部を中心に、事業部、コンプライアンス、内部監査、企画部などからもお申し込みいただきました。(他には、M&Aアドバイザー、保険仲介会社、業界団体など)

アンケートでは、「とても有益なセミナーでした。本年参加したセミナー・Webinarの中ではベストです。」とのご感想をいただきました。クライアントの皆様のご支援に改めて感謝を申し上げます。

同セミナーのアンケート結果より浮かび上がった国際商事仲裁に関する日本企業の皆様の認識、課題についてご紹介します。

1. 国際商事仲裁Webinarにご関心を持ったきっかけ

「具体的な仲裁案件の予定はないが、国際仲裁についての情報収集のため」が最多でした(73%)。次いで、「国際仲裁の経験がある(申立て側、被申立て側を問わない)」が16.2%、「今後、国際仲裁の申立てを検討する可能性があるため」が5.4%でした。

この結果から、日本企業が国際仲裁に関わる件数はまだ少ないものの、ここ数年の国際仲裁件数の増加と、国際取引を巡る紛争解決方法としての関心の高まりを感じさせるものです。訴訟遅延や司法の公平性など、問題のある新興国などの企業との取引において、先方の国・地域での司法制度を回避し、公平性のある国際仲裁による紛争解決の需要は今後も益々高まっていくでしょう。

2. ご関心のある仲裁機関

Webinarでも取り上げた「SIAC(シンガポール国際仲裁センター)」がダントツ(46.7%)で、次いで「ICC(国際商業会議所)」が25.4%、「JCAA(日本商事仲裁協会)」が21.3%でした。伝統的で国際的な仲裁機関であるICCを大きく引き離してシンガポールのSIACが関心を集めていることは大きく注目されます。

これは日本企業によるアジア展開の拡大を反映していることに加えて、SIACが使い勝手のよい仲裁制度を整備していることも特筆すべきです。SIACは、1991年設立の比較的新しい仲裁機関ですが、ICCと比較して、手続の迅速さ、柔軟性、低コストなどを売りにして、急激に取り扱い事件数を伸ばしています。ICCとSIACの比較については、こちらをご参照ください。

3. 国際仲裁の課題

国際商事仲裁の課題としてあげられたのは、1. 契約の仲裁条項の作成(50%)、2. 仲裁案件の効率的な処理(22.2%)、3. 仲裁申立てを受けた場合の対応(16.7%)の順でした。

以下、各項目について日本企業の皆様から頂戴した典型的な課題をご紹介します。

【仲裁申立てを受けた場合の対応の課題】

  • 契約書において仲裁条項を起案するに際して、どのように記載すべきか(各仲裁機関が定めているモデル条項をそのまま使用することが、実務上のベストプラクティスなのか)
  • 仲裁機関や仲裁地の選択基準(費用対効果への考慮、理由 など)
  • 仲裁条項を盛り込んだ契約の扱い

【仲裁案件の効率的な処理の課題】

  • 国際案件に対応できる事務所の整備ができていない

【仲裁申立てを受けた場合の対応の課題】

  • 社内では日常的に訓練される事項ではないため、初動の誤りが生じがち

以上の統計から、多くの日本企業では、日々の契約審査において、仲裁機関の選択や仲裁条項の作成、仲裁申立てを受けた場合の初動対応や、国際仲裁に対応できる法律事務所の整備について情報収集し、検討している段階といえます。今からでも遅くはありませんので、取引の国際化が進む今後を見越して、国際紛争解決の有効な手段として、国際仲裁に関する課題への取り組みを進めていきましょう。