【コラム】インドにおけるM&A、リストラクチャリングと出口(EXIT)戦略 <第1回>
ここ数年来、日本企業におけるインド市場への進出は活発化し、進出後の現地事業に関わる再編なども増えており、当事務所でもインド案件の経験を豊富に蓄積しています。
本コラムでは、インド市場攻略にお役立てられるよう、インドにおけるM&A、リストラクチャリングと出口(EXIT)戦略について3回の連載でご紹介します。
下記の情報は、インド法律事務所の DSK Legal より提供いただいています。
インドにおけるM&A、リストラクチャリングと
出口(EXIT)戦略 <第1回>
1. 買収
1.1. 非上場会社の株式取得
インドの非上場会社を既存株主から買収する場合、株式譲渡契約(Share Purchase Agreement:SPA)は、買い手と既存株主との間で締結します。SPAは、表明保証(representations and warranties)、補償(indemnities)、両当事者の誓約・義務、売り手により充足すべき取引実行の前提条件といった条項を含みます。対象会社の事業の本質やデュー・ディリジェンスの発見事項によりますが、対象取引により潜在的な補償請求のために、買い手は「hold back」や「escrow」といったストラクチャーを検討すべきです。SPAに加えて、Promoterや主たる経営陣を継続雇用(retention)するための雇用契約やエスクロー契約が重要なものとなります。
留意点として、会社法下の譲渡に関する規定、外国企業が取引に関与している場合の1999年インド外貨為替管理法(Foreign Exchange Management Act:FEMA)、上場会社が関与する場合の2011年インド証券取引委員会(SEBI)規則(Takeover Code)を遵守することです。インドは、外国投資について自由化しており、多くの事業分野が、自動ルート(automatic route)(すなわち、事後通知のみが必要とされる)とされますが、特定の事業分野(例えば防衛や電気通信、メディア)においては承認ルート(approval route)(すなわち、投資に先立ち、政府当局による事前承認が必要とされる)とされます。
さらに、インド準備銀行(Reserve Bank of India:RBI)、インド保険規制開発庁(Insurance Regulatory Development Authority:IRDA)、インド電気通信省、防衛省などからの更なるコンプライアンス上の条件や事前承認の取得などの準備が条件となることもあります。
1.2. 公開買付け(Open Offer)による上場株式の取得
インドの上場会社の株式を取得する場合、公開買付規則(Takeover Code)に従い、(i)買い手(共同保有者を含む)が、上場会社の株式又は議決権の25%以上を取得する場合、(ii)25%以上75%未満を保有する買い手が、上場会社の株式又は議決権の5%超を取得する場合に、買い手は公開買付けを行わなければならず、株式の保有を望まない少数株主にはEXITの選択権を与えられます。
買い手が25%超75%未満の上場会社の株式を保有する場合、当該上場会社は任意的に公開買付け(Open Offer)を行うことで少なくとも10%の株式を買い取ることができますが、公開買付規則の定める一定の要件を遵守することが条件とされます。公開買付規則の遵守に加えて、買い手は報告義務、開示義務などSEBIより求められる事項を遵守する必要もあります。
1.3. スクイーズアウト(Minority Squeeze Out)による少数株式の取得
スクイーズアウトは、多数株主又は多数株式の取得者が少数株式を強制的に取得しようとするインド会社法上に基づく行為であり、非上場/上場会社の多数派株主は、スクイーズアウトにより、既存の少数株主の株式を取得することができます。インド会社法230条11項12項、235条、236条がスクイーズアウトに関する規定で、これらの規定は、会社法が定める一定の要件を充足した場合に、多数株主又は(合併計画書や契約書上の)多数株式の取得者が、少数株主の株式を取得することを容認しています。なお、少数株主保護のため、インド会社法230条12項及び235条では、会社法審判所(National Company Law Tribunal:NCLT)に対し申請された買収行為(Takeover)に不服のある少数株主に対し、NCLTへの申立権を付与し、インド会社法236条が、少数株主の75%以上に対し価格交渉権を付与しています。
ただし、実務上、多数株主がこれを実行することは難しく、デッドロックに陥る傾向にあります。
特に、多数の少数株主や個人の売り手がいる場合には少数株主間の利害を調整することが争点の一つとなるため、スクイーズアウトはより複雑になります。少数株主とのデッドロックを避けるため、最終契約(definitive documents)を作成して多数株主と少数株主との間の権利・義務を明確化しておくことが重要です。また、最終契約は、将来のデッドロックを避ける少数株主の観点からも、また、対象会社の支配権獲得を試みる多数株主の観点からも、少数株主のEXITの権利を詳細に規定すべきでしょう。
2. 合併(Amalgamation / Mergers)
インドでは、合併は、裁判所の主導により進められる手続で、2013年インド会社法232条乃至234条及び(上場会社の場合においては)2015年インド証券取引委員会(SEBI)規則により専ら規律されます。合併のために準備する書類は合併計画書(Scheme)と呼ばれます。合併計画書はまず合併会社の取締役会、株主総会により承認される必要があるほか、インド証券取引委員会(SEBI)、証券取引所(上場会社が関与する場合)、インド競争法当局(合併が一定のインド競争法上の届出基準を超える場合)、各種規制当局(例えば、インド準備銀行(RBI)、インド保険規制開発庁(IRDA)、防衛省など)による承認を要する場合があります。会社法審判所(NCLT)は、合併計画書の適切な実行・履行のため、合併計画書を審査し、時には軽微な修正を行うことで、合併に関する手続を監視する機関です。合併が完全親子会社間か関連会社間でなされる場合を除き、合併は通常複雑な手続を要し、一般的には合併計画書の提出から24週間から36週間ほどの期間を要します。多数の手続を要することから、合併計画書の提出時点で(可能な限り必要な書類のドラフトなど)関連情報を整えておくことが重要です。
第2回:インドでの資産譲渡・事業譲渡、合弁(Joint Venture)など
第3回:インド法人の清算など、インド外資規制
(執筆担当者:岩崎)
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