【セミナーサマリー】TKI Global Webinar Interview Series Vol. 1
2020年5月28日、インド最大級の法律事務所 Khaitan&co のM&AパートナーであるZakir Merchant弁護士をお迎えし、TKI Global Webinar Interview Series Vol. 1を開催しました。
同セミナーのサマリーをお届けします。
1. Khaitanについて
- Khaitanは、インドの4都市にオフィスを有し約600名の弁護士を擁する総合法律事務所です。
- スピーカーのZakir Merchant弁護士は、過去12年間、商社、金融サービスなどによる日本からインドへの大規模な投資案件など、日本のクライアントへのアドバイスを専門に行っています。
- Khaitanは、JETROのリーディング・カウンセルでもあり、日本企業へ問題点や懸念事項について見識を提供しています。
2. インドにおけるロックダウン及び規制について
- インドにおけるロックダウンは、3月24日に開始され、セミナーが開催された5月28日時点においても継続されています。インドは、人口の規模が14億人とあまりにも多いため、厳しいロックダウンを課すしかない状況にあるといえます。
- インド政府は積極的に動いていますが、医療制度の混乱も相まって、感染者数を抑えるのに苦労しています。
3. 労働問題
- 突然のロックダウンは、出稼ぎ労働者などの労働者階級の人々に影響を与えました。政府は帰郷する出稼ぎ労働者の大移動に伴い生じるウイルスの拡散を抑えようと苦心してきました。
- 雇用者による従業員の解雇を防ぐため、3月29日、政府により従業員の解雇を行わないようにという要請が発表されましたが、この要請は企業の混乱を招き、法廷で争われています。現時点で、これまでの政府による要請はすべて取り消されました。
- 企業では、レイオフ(一時解雇)や人員整理を行っています。企業の上層部では平均20%の賃下げ、従業員は組合交渉を行っています。
4. 進行中の取引などに与える影響
- インドへの大規模な投資は継続して行われていますが、株式市場の状況により上場企業の買収に遅れが出ているなど、いくつかの案件は後回しにされています。
- インドでは、いわゆる不可抗力条項の適用が認められるためのハードルが高いため、実際に主張していくことは非常に難しく、契約の解除や取り消しが認められるケースは少ないです。
- M&A案件についてみると、近時の傾向として、MAC条項を規定しないケースが増えており、その場合、取引からの離脱は認められないことになります。
5. 外資規制と価格設定ガイドライン
- インドへの投資には、自動ルートと政府ルートの2つの方法があります。ほとんどの分野では自動ルートでの投資が可能ですが、一部のセンシティブな分野では政府ルートが必要となります。政府ルートでは多くの手続きが必要となるため、ロックダウン中は、特に、自動ルートを選ぶことができる投資先への投資を検討した方が良いと思います。
- 価格設定ガイドラインでは、日本企業を含む外国投資家が国内投資家から企業を買収する際に、適正価格を下回らないようにすることが求められます。逆に、外国投資家が国内投資家に対して企業を売却する場合には、適正価格を上回るようにする必要があります。日本企業が買収する際には、適正価格以上の対価を支払う傾向が多いので、買収時にこの規制が問題になるケースは少ないのですが、売却時には注意が必要です。この規制のために、購入時の価格と売却時の価格にギャップが生じ、損が出るため、売却が難しくなるというようなことが生じます。
- また、合弁のEXIT戦略などでプットオプションを持つ場合にも注意が必要です。プットオプションによる売却価格にも、価格設定ガイドラインが適用されるからです。実務的には、様々な工夫でプットオプション条項を執行していく道は残されており、実際に、Khaitanが関与した案件で執行に成功した例もありますが、いずれにせよ、契約書のドラフティングに当たっては、慎重に対処する必要があります。
6. 「ニューノーマル」な経済 - COVID-19の後はどうなるのか?
- 現在、公開市場の株価が下落しています。投資家の資金を呼び込むため、当局にて最低流動性基準の緩和などが議論されていますが、今のところ、適用対象となり得るのは、財務的に問題のある企業のみとなる模様です。もっとも、インドの多数の企業は現在、財務的に問題があるともいえ、今後の動向が注目されます。
- 日本企業は、工場訪問や対面訪問などの物理的なコンタクトを重視しています。しかし、現在はそれらが困難な状況にあり、今後数ヶ月間の課題となるでしょう。
7. インド企業のプロモーターの交渉は非常に強いが、軟化はあるのか?
- この点については、日本側が強い交渉態度を持つということに尽きるように思います。
- 日本企業の交渉プロセスやオファーは、良くも悪くも非常に「フェア」であると感じます。取締役会の承認日を事前に設定し、計画的にプロセスを進めています。これは素晴らしいことですが、インドのプロモーターは、そのような日本の内部システムを逆手に取り、最後の最後まで厳しく交渉することにより自分の利益を最大化しようとします。日本企業は、そのようなタフな交渉に立ち向かう準備が必要です。
- 交渉では、上層部の経営陣と話をするのがベストです。「経営陣に一旦持ち帰る」という逃げ道がないため、結果的にはよりよい交渉が可能になります。
- 日本企業の皆様には、日本のクライアントへのアドバイス経験が豊富で、非常に高い水準のサービスが求められていることを理解しているインド人弁護士に依頼することをお勧めします。