【COVID-19】サプライチェーンの混乱がもたらすコンプライアンスリスク
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により、様々な業種においてグローバル・サプライチェーンの混乱が生じています。多くの企業が新たな供給元を探している一方で、新たな産業に参入し、マスクや医療用人工呼吸器の製造を始めた企業もあります。
本コラムでは、新たなサプライチェーンの構築に伴うコンプライアンスリスクへの戦略的対応のためのエッセンスをご紹介します。
下記のコラムは、米国法律事務所のThompson Hineに所属するMatthew Ridings弁護士及びJoan Meyer弁護士より提供いただいた情報を基に作成しています。
サプライチェーンの混乱がもたらすコンプライアンスリスク
米国海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practices Act: FCPA)や英国贈収賄法(U.K. Bribery Act)は、企業に対して、サプライヤーや代理店などのサードパーティーが当該企業のために賄賂の支払いなどを行わないよう、適切な防止措置を講ずることを求めています。通常、企業は、サプライヤーやビジネスパートナーなどのサードパーティーと取引を開始するにあたって、当該サードパーティーに対するデューデリジェンスを実施することで、サプライチェーンやビジネスパートナーにおける贈収賄リスクを評価し、その上で適切なリスクコントロールの手法を決定します。
しかし、このデューデリジェンスのプロセスには数週間から場合によっては数ヶ月かかることもあります。COVID-19の影響によりサプライチェーンが分断されている場合には、商品や部品を納入できる代替のサプライヤーがいれば、COVID-19を理由に、上記のようなリスク管理のためデューデリジェンスなどの内部手続を特例的に省略する誘惑にかられることも少なくありません。
しかし、4月、米国司法省の高官は、COVID-19によって生じたサプライチェーンに混乱が生じていることに理解を示しつつも、引き続きFCPAの執行を継続することを明らかにしました。
したがって、企業は、新たなサプライヤーとの取引を開始する際や、新しい商品・製品を調達する際にも、適切なリスクコントロールを行うことが従前と同様に求められることに注意しなければなりません。
米国やその他多くの国においては、企業は、サプライヤーなどのサードパーティーのリスクアセスメント、リスクコントロール手法を決定する際に、リスクベースのコンプライアンスプログラムに依拠することが求められます。サプライチェーンの分断や経済の減速などの厳しい環境下においては、贈収賄が行われるリスクが高まるともいわれています。したがって、かかるパンデミックの状況下で新たなサプライヤーと取引を開始する場合、企業は、現在の贈収賄リスクが平時に比べて高いことを前提に、サプライヤーのリスクを適切に評価できる手続やルールを定める必要があります。そして、かかるCOVID-19に対応した手続・ルールを策定するにあたっては、以下の点に着目することが重要です。
- その手続・ルールが、新たなサプライヤーなどのサードパーティーのリスクを評価・コントロールするための体系的かつ一貫した手続・ルールとなっているか(顧客に対するリスクアセスメントの手法とは異なる、外部業者などのサードパーティー特有のリスクアセスメントを行う必要がないのか)
- 当該サードパーティーに対する本人確認がどのように行われているのか(信頼できる情報ソースを用いているか)
- 当該サードパーティーがどのようにして商品を調達しているかをリスクアセスメントにおいて確認しているか
- 当該サードパーティーにとって取引を開始する経済合理性があるのか(当該サードパーティーにとって、適法に業務を遂行して利益を出せる水準の取引なのか)を検討しているか
- サードパーティーに対するデューデリジェンスの範囲が(顧客に対するデューデリジェンスなどと比較して)過度に限定されていないか
- サードパーティーにかかるリスク特有のレッドフラッグが定められているか
このようなコンプライアンスプログラムは、平時に行うリスクアセスメントやデューデリジェンスよりも厳格なものとなる可能性もありますが、何よりも、企業が自社の状況や事業に関するリスクを適切に評価するための手続を文書化しておくことが肝要です。
(執筆担当者:荒井)
※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的アドバイスではありません。
ご質問などございましたら、ご遠慮なくご連絡ください。