【コラム】米国規制当局からの民事調査請求の概要とその対応策 <後半>
前半では、米国司法省(Department of Justice「DOJ」)が連邦民事調査に関連した正式な情報要求として発行する民事調査請求(Civil Investigation Demand「CID」)の概要をご説明しました。
後半では、CIDを受け取った後の具体的な対応策について解説します。
下記の情報は、米国法律事務所のKirby McInerney LLPに所属するChristopher Studebaker弁護士より提供いただいています。なお、同弁護士より「米国における新型コロナウイルス(COVID-19)に関連する契約上の問題への対応」及び「米国のビジネスにおける新型コロナウイルス(COVID-19)に関連して発生する紛争とその対応策<前半><後半>についても情報を提供いただいていますので、あわせてご参照ください。
米国規制当局からの民事調査請求の概要とその対応策 <後半>
1. CIDの要求を理解する
最初のステップは、(1) CIDの慎重なレビューと(2) DOJの職員との会話を通じて、調査の内容に関する情報を収集することです。調査の論点は、要求された情報から推測することができます。
さらに、企業の代表者(通常は社内弁護士又は社外弁護士)は、DOJに連絡して受領を確認し、当初の回答期限の延長を求めるべきです。このような早期の対話により、調査の論点がさらに明確になり、会社が潜在的なターゲットであるか、それとも証人としての立場なのか、明確になる可能性があります。さらに、DOJの職員に会社や業界について情報を提供し(educate)、CIDに関して交渉して提出の負担を最小限に抑え、反論の準備をすることで、企業への潜在的な影響を最小限に抑えることができます。
2. リティゲーション・ホールドを行う
もう一つの重要なステップは、会社が「リティゲーション・ホールド」をできるだけ早く実施することです。リティゲーション・ホールドとは、会社が(通常は法務部を通じて)従業員に、電子的に保存された情報(「電子情報」)を削除しないように指示したり、新たな又は差し迫った法的措置に関連する可能性のある紙文書を廃棄しないように指示する通知のことです。また、会社の文書や電子情報の破棄ポリシーの停止(電子メールの自動削除機能をオフにするなど)も必要となります。会社は、文書や電子情報の保存においては、包括的に行う必要があり、IT担当者がプロセスに関与すべきです。また、調査が進むにつれ、リティゲーション・ホールドは変更される可能性があり、リマインダーとして定期的に再送することも検討する必要があります。
3. CID担当チームを組成する
CID対応チームを作ることも重要です。また、このチームには外部の弁護士を含めることが大切です。第一に、社外弁護士は、会社による影響を受けない中立的な第三者としての役割を果たすことができます。第二に、社内弁護士が関わるコミュニケーションにおいて、秘匿特権が適用されるか曖昧な状況において、社外弁護士を起用することで、弁護士と依頼人との間の秘匿特権が適用され情報が保護される場合があります。この点、社内弁護士が会社に経営上のアドバイスや法律上のアドバイスを提供している場合、法律上のアドバイスに関連する情報のみが保護されます。例えば、CIDが会社のイメージに与える影響への対応について社内弁護士が経営陣に助言を行った場合、その情報は秘匿特権として保護されません。しかし、社外弁護士がコミュニケーションに関与していた場合、当該情報は秘匿特権が適用され開示を免れる可能性があります。第三に、重大な問題が発覚した場合、社内弁護士や従業員は社内から受けるプレッシャーを軽減できます。
対応チームは、CIDにおいて、比較的簡単に対応できる要求と、時間がかかり負担の大きい要求とを区別するために、アクションプランを策定する必要があります。このような区分けは、広範な要求の範囲を狭めたり、過度に負担の大きい要求の実施を遅らせたり、CIDの調査対象になるカストディアン(関係する知識や情報を持つ重要人物)や電子情報の検索条件について合意したりするためにDOJと交渉する際に有益です。法務部門やIT部門とは別に、訴訟の対象となる従業員が会社を退職した場合、会社のパソコンやその他の機器が返却されるようにするために、人事部門など関係部門が関与することも必要です。
CIDへの対処は、漏洩の可能性を制限するために、必要な範囲において実行することが必要です。会社は、従業員に調査の内容を説明し、この問題について従業員同士や社外で話し合うことを避け、又、質問があれば社内弁護士に送るように推奨したいと思うかもしれません。しかし、会社は、弁護士と依頼者との間の秘匿特権で保護されている情報を開示しないように注意しなければなりません。会社は、CIDが第三者として会社に情報を求めるのか、法令違反をした対象として会社に情報を求めるのかなど、調査の具体的な事実に基づいて、適切なメッセージや開示の範囲を、社外弁護士と緊密に連携して決定する必要があります。また、幹部には、競合他社と調査について話し合わないように伝えなければなりません。DOJの独占禁止法調査では、このようなコミュニケーションは協調行為と解釈される可能性があるため、特に重要です。とはいえ、社外弁護士は、Joint defense agreement締結の可能性を議論するために、調査中の他の会社(判明している場合)に連絡を取ることも要検討です。
4. 情報の収集と提出
次に、対応チームは、退職者を含む従業員と面談し、文書(電子情報も含む)を確認して、根本的な問題を理解するとともに、他の主要なカストディアン(情報保持者)、文書、データを特定することが必要です。従業員との面談を行う際には、弁護士は従業員に対し、(1) 弁護士は従業員個人ではなく会社を代理していること、(2) 弁護士と依頼者の間の秘匿特権により議論の内容が保護されること、(3) 会社だけがその秘匿特権を放棄することができること、及び、(4) 従業員は、希望すれば他の独立した弁護士に依頼することが出来ること、の4点を伝えなければなりません。
かかる面談によって、もしDOJ職員が従業員に面談した場合に、従業員が何を言うかを予測することができます。さらに、内部調査は、会社が問題を理解し、法律を遵守しているかどうかを判断し、潜在的な影響を評価し、可能性のある強制処分に対する戦略を策定するのに役立ちます。
文書、特に電子情報の特定と収集には多大な労力と負担がかかります。この作業を適切に行うためには、IT部門、又は、できれば第三者の電子情報ベンダーに関与させるべきです。電子情報には、電子メール、ボイスメール、テキストメッセージ、データベース、デジタル画像、その他あらゆるタイプのファイル(PDF、エクセルなど)など、あらゆるデータが含まれます。さらに、パソコン、クラウドストレージ、サーバー、データベース、スマートフォン、USBドライブなど、データが保存されている場所を調査する必要があります。従業員の個人的な電子機器であっても、仕事で使用している場合には、その電子機器も調査対象になります。
最後に、情報を規制当局に提供する必要がありますが、DOJの提出要領には注意を払う必要があります。また、電子情報の収集を防御可能な態様で収集すること、つまり、フォレンジックな方法で、ベストプラクティスに沿って収集する必要があります。これにより、文書を破棄したなどといった主張に対する防御が可能になります。作成される情報を機密情報として指定すべきですが、DOJは特定の状況下では、DOJの他の部局や外部の規制機関に当該情報を開示する可能性があることを認識しておくべきです。
5. 是正措置又はレギュレーション上の開示が必要かどうかを判断する
さらに、問題となっている行為を是正する必要があるかどうかについても検討すべきです。調査の初期段階でビジネスプラクティスの是正を行うことで、後に規制当局が提訴した場合に問題となった行為が既に過去のものであり、もはや行われていないものであることを示すことができるかもしれません。さらに、会社が民事上の罰金の可能性を軽減するための証拠となる可能性もあります。しかし、このような事項は、是正措置をとることが不正行為を認めたとみなされる可能性があることも考慮した上で、検討する必要があります。
上場企業の場合、DOJのCIDを受領することは、日本又は米国のいずれかで開示が必要である場合もあります。開示が必要かどうかは個別のケースに応じた判断にはなりますが、開示を行う前に、当局の調査の性質、調査の段階、調査が会社に与える潜在的な影響を考慮する必要があります。
例えば、第三者として情報を求められる場合、開示は必要ないように考えられる一方、調査の事実が投資家にとって重要なものである場合には、開示が必要な場合もあると思われます。また、初期の段階で開示が必要ないと判断した場合でも、問題の進展に応じて開示義務が発生するかどうかを判断するために、定期的に状況を再評価し続けることも必要です。さらに、CIDへの対応に関連して、保険会社に対する通知義務がないか、保険会社が法的費用を負担することとなっていないかなどを確認するために、D&O保険契約についても確認するべきです。
最後に
DOJのCIDへの対応は、コストや時間がかかり、又、従業員にとって負担がかかります。役員および法務部門はCIDに最大限の注意を払うべきで、CIDへの対応の経験がない場合は、外部の弁護士を起用して対応することが必要です。上記のようなステップを踏むことで、CIDの要求を軽減するなどして、ビジネスに大きな支障をきたすことなく、対応することが可能になります。
(執筆担当者:飯島)
※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的アドバイスではありません。
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