【コラム】米国規制当局からの民事調査請求の概要とその対応策 <前半>
近年、日本企業の米国子会社がFCPA違反などを理由に、規制当局から召喚令状(subpoena)を送付され、強制調査の対象となる事例が増えています。米国当局が行う調査の多くは、民事調査請求(Civil Investigation Demand)と呼ばれる通知から始まります。民事訴訟や、ときには刑事手続にも発展する重要な通知ですので、その対応にあたっては初動が特に重要になります。
本コラムでは、かかる民事調査請求の概要と対応策について整理しました。今回は、前半部分をお届けします。
下記の情報は、米国法律事務所のKirby McInerney LLPに所属するChristopher Studebaker弁護士より提供いただいています。なお、同弁護士より「米国における新型コロナウイルス(COVID-19)に関連する契約上の問題への対応」及び「米国のビジネスにおける新型コロナウイルス(COVID-19)に関連して発生する紛争とその対応策<前半><後半>についても情報を提供いただいていますので、あわせてご参照ください。
米国規制当局からの民事調査請求の概要とその対応策 <前半>
過去10年以上にわたり、米国の子会社を持つ日本企業は、米国法令違反を理由に連邦政府の規制当局による調査や強制執行の対象となってきました。特に、米国司法省(Department of Justice「DOJ」)は、カルテル、談合その他の反競争的行為で日本企業を相手取り、反トラスト法(米国独占禁止法)に関する訴訟を提起しています。最近の強制執行は、自動車部品、液晶ディスプレイ、コンピュータ部品、為替市場の分野において顕著です。また、DOJは、特に日本の商社や電子部品メーカーなどを相手として、海外腐敗行為防止法(Foreign Corrupt Practice Act 「FCPA」)違反のための強制処分を行ってきています。これらの訴訟の多くは、DOJが連邦民事調査に関連した正式な情報要求である、民事調査請求(Civil Investigation Demand「CID」)を発行することから始まります。
今回は、CIDの概要をご説明します。
CIDを受け取った場合にとるべき具体的な対応策については、後半でお届けします。
1. 民事調査請求(Civil Investigation Demand「CID」)について
CIDは強力な調査手段です。関係当局には、それぞれ、CIDの発行要件を規定する根拠法令があります。例えば、反トラスト民事手続法(Antitrust Civil Process Act「ACPA)」)は、DOJが反トラストに関する民事調査を行うにあたって、CIDを発行する際に順守すべき規則を定めています。
連邦政府機関(DOJなど)は、個人又は会社が民事調査に関連する情報を持っている可能性があると信じる理由がある場合、CIDを発行します。受領者は要求された情報に対応し、提出する必要があります。提出すべき情報には、(1) 電子的に保存された情報(Electronically Stored Information「電子情報」)を含む文書、(2) 質問への回答、(3) 証言が含まれます。
CIDは裁判所の承認なしに発行することができるため、連邦刑事手続において裁判所が発行する大陪審の召喚令状(grand jury subpoena)とは異なります。さらに、CIDは、法律に違反していることを認定するものではありません。むしろ、CIDは、違反が発生したかどうかを関係機関が判断するために必要な事実を収集し、受領者又は第三者のいずれかに対して強制処分を行うことが許容されるかを判断するためのものです。DOJがCIDによって得られた資料を開示できるのは、(1) 米国議会への開示、(2) 連邦取引委員会(FTC)への開示、(3) 第三者が行う証言に際して、得られた情報を参照するための開示、(4) DOJが関与する裁判、大陪審、又は連邦行政・規制手続に関連して使用するための開示です。ただし、DOJは、州の法執行機関と情報を共有するためには、当事者から放棄の合意(waiver)を得なければなりません。さらに、国際反トラスト執行支援法(International Antitrust Enforcement Assistance Act)に基づき、DOJが外国の反トラスト当局と機密の調査情報を交換することもできます。CIDは、民事調査に関連して発行されますが、関連する刑事訴訟やその後の刑事訴訟のための情報を与え、また、CID調査で得られた資料は刑事手続に使用することができます。重要なポイントとしては、CIDは正式な民事訴訟が開始される前にのみ発行することができる点です。訴訟が開始されると、当局は伝統的なディスカバリーによる情報収集によらなければなりません。受領者はCIDの却下を求めることができますが、却下を認めさせることは容易ではありません。
DOJのCIDに関する根拠法令たるACPAは、デュー・プロセスの要件を満たすことを条件に、米国内及び米国外のあらゆる個人又は会社に対してCIDを送達することを認めています。例えば、親会社たる日本法人に対して、親会社の子会社に対する支配が立証されれば、米国内の子会社を通じてCIDを送達することができます。また、役員が米国に渡航している場合には、米国内での個人への送達が会社への有効な送達とみなされます。さらに、ACPAは、米国外に所在する文書を対象とする調査を実施する際に、米国人でない者や米国外の企業に対する送達を規定しています。このような場合、DOJは、多くは、公正取引委員会などの管轄区域の外国政府機関と協力して調査を行うことになります。
2. CIDの送達を受けた後のステップ
DOJのCIDを受け取ることは、会社がすぐに民事上の執行手続に直面することを意味し、場合によっては刑事調査などに発展する可能性があるため、重大な問題であり、軽視すべきではありません。CIDを受領した場合、受領者は通常、以下のことを行う必要があります。
(1) CIDの内容と論点を理解し、DOJの職員とのコミュニケーションを図る
(2) 関連資料を保存する
(3) CID対応チームを設置し、内部調査を実施する
(4) CIDに回答すべき情報を収集・作成する
(5) 是正が適切かどうか、又は開示が必要かどうかを判断する
(執筆担当者:飯島)
※本記事の内容は、一般的な情報提供であり、具体的な法的アドバイスではありません。
ご質問などございましたら、当事務所(info@tkilaw.com)までご遠慮なくご連絡ください。